腱板断裂手術後の76歳男性|「夜眠れない」肩の痛みを最優先にリハビリを進めた実例

「肩の手術を受けたのに、夜になるとズキズキ痛んで横になって眠れない」
「リハビリでは痛みを我慢してでも腕を動かさなければいけないのだろうか」
「クッションを挟んでも痛みが治まらないとき、どうすればいいのだろう」

腱板断裂の手術後には、夜間の痛みや睡眠のしづらさがみられることがあります。

この記事でご紹介するのは、手術後に「夜眠れない」という切実な生活の困りごとに直面した白木八雲さん(76歳男性・仮名)の実例です。

術後のリハビリテーションでは、予定されたスケジュール通りに腕の角度(可動域)を広げることよりも、まず睡眠と痛みの管理が最優先にされます。

腱板断裂の手術を受けた76歳男性

まずは、白木さんがどのような状態から手術とリハビリに臨んだのか、その背景から振り返ります。

術前の状態(夜間痛と肩の動かしにくさ)

76歳の白木八雲さんは、約9年前に反対側の肩の腱板手術を受けた経験がありました。

今回は右肩の腱板断裂に対し、関節鏡を用いた修復手術(関節鏡視下腱板修復術:ARCR)を受けることになりました。

手術前の段階から、じっとしているときの痛みはないものの夜間にズキズキ痛む「夜間痛」が存在し、自力で腕を持ち上げられる範囲や外側へひねる動きにも明らかな制限がみられていました。

関節鏡視下腱板修復術の実施

手術では、断裂していた腱板組織の修復に加え、周囲の組織に対する処置が合わせて行われました。

手術を終えた後は、修復した組織を保護するために専用の装具で腕を固定しながら、段階的なリハビリテーションが開始されました。

※腱板断裂の病態や診断、手術と保存療法の違いについては、関連記事「腱板断裂」で詳しく解説しています。

術後約1週|最大の困りごとは「夜眠れない」ことだった

手術から約1週間が経過した初期の評価で、白木さんからの最も強い訴えは「夜眠れない」というものでした。

この時点では、腕を動かさずにじっとしているときにもわずかな痛みがあり(安静時痛)、夜間になると痛みが強まってまとまった睡眠がとれない状態でした。

また、肩の周囲の筋肉(三角筋など)には強い緊張(スパズム)がみられ、肘をまっすぐ伸ばすことにも制限が確認されました。

可動域より先に「睡眠」を生活目標として考えた

リハビリというと「術後何週で腕が何度動くようになったか」という角度の回復などに目が向きがちです。

しかし、この時期に一番大切なのは、「夜、痛みが無くぐっすり眠れること」です

では、横になって眠れるようになることが、その時点での白木さんの重要な生活目標になっていました。

腕を無理に動かす練習を急ぐのではなく、まずは白木さんが「夜眠れる状態を作ること」を最優先の目標として設定されたのです。

※肩の夜間痛の仕組みや一般的な注意点については「夜間痛」をご覧ください。

2〜3週たっても横になって眠れなかった

しかし、白木さんの場合、睡眠の確保と痛みのコントロールは簡単には進みませんでした

ソファーにもたれて夜を過ごす日々

術後2週が経過しても白木さんの「夜は痛くて寝られない」という訴えは続き、三角筋(肩を覆う大きな筋肉)や上腕二頭筋(力こぶの筋肉)周囲の強い緊張(防御性収縮)も残っていました。

さらに術後3週の段階では、「夜はベッドに横になれず、ソファーにもたれるようにして眠っている」という状態になっていました。

ポジショニングを試みるも十分な変化が得られない

理学療法の担当者は、腕や肘の下に枕やクッションを差し込んで肩への負担を減らす姿勢の工夫(ポジショニング)を試行錯誤しました

しかし、白木さんの夜間時痛の場合は、回復に困難を極めました。

クッションを当ててもジンジンして難しい」という訴えがあり、姿勢の工夫や理学療法士の介入だけでは十分な痛みの軽減や睡眠の改善が得られませんでした

理学療法だけで抱え込まず、医師へ至急の再診を依頼した

このように術後3週が経過しても白木さんの強い夜間痛が続き、筋肉の緊張も著しく、当初想定していた装具を外すステップへの移行が難しい状況でした。

こういう場面の理学療法士は、「自分のリハビリだけで何とかしよう」と固執することはできません。

  • 術後3週の時点でも強い夜間痛が続いていること
  • ポジショニングを試みても横になって眠れず、ソファーで過ごしていること
  • 肩周囲の筋緊張が強く、計画通りの装具除去は難しいと判断されること
  • 関節内の炎症など、医学的な確認が必要と考えられること

これらの詳細な経過と現在の身体所見を、主治医へ正確に共有し、できるだけ早めの診察を依頼しました。

理学療法士が自分の専門分野の枠内だけで抱え込まず、患者さんの安全と状態を最優先にして医師へ情報をつなぐことは、チーム医療における極めて重要な判断であり義務責任です。

医師へ相談した後|約4週には「夜眠れるようになった」

医師による診察が行われ、肩関節に対する医学的処置(注射による対応など)が実施されました。

その後、術後約4週のごろには、白木さんからやっと、「夜眠れるようになった」「痛みも落ち着いている」と聴取することができました。

じっとしているときの痛み(安静時痛)や夜間痛が和らいだことを確認した上で、慎重に装具を外す段階(部分的に外す時間を作り、その後に完全除去へ進む)へとリハビリが進められました。

注意:この実例は「注射を打てば誰でも夜間痛が治る」という単純な話を示すものではありません。この患者さんについて個別に医師が診察したうえで医学的処置が選択され、結果的に睡眠や痛みの変化が確認されています。

術後リハビリは「何週目か」だけで自動的に進めることはない

白木さんの例に限らず、術後の装具を外すかどうかの判断は、単に「術後4週が経過したから」というカレンダー通りの基準だけで決められていたわけではありません。

  • 睡眠を妨げるような強い夜間痛が落ち着いているか
  • じっとしているときの安静時痛がないか
  • 腕を自然に下ろした姿勢をとれるか
  • 肩周囲の著しい筋緊張が和らいでいるか
  • 動かせる範囲が一定程度保たれているか

白木さんの場合も、身体の状態を一つひとつ確認した上で、次の段階へ進むかどうかが判断されていました。

術後の管理基準は、断裂の大きさや術式(修復方法)組織の状態によって施設や主治医ごとに個別のプロトコルが設定されます。ネット上の情報だけを見て、自己判断で装具を外したり運動を始めたりしてはいけません

肩の角度だけでなく、首や肘、寝姿勢まで確認していた

白木さんの術後1か月までの評価において、理学療法士は肩の動く角度だけを見ていたわけではありませんでした。

  • 安静時の痛みや夜間痛の有無
  • そもそも寝付けないのか、途中で痛みで目が覚めるのか
  • 装具をつけているときの姿勢や、本人が楽だと感じる就寝姿勢
  • 肩周囲の筋肉の硬さ
  • 首や肘、手首など、装具による固定の影響を受けやすい他の関節の動かしやすさ

このように、肩という一部分だけでなく、周囲の関節を含めた身体全体、睡眠環境などを捉えながら、白木さんのリハビリテーションは行われていました。

理学療法士が肩を評価する際の全体的な視点については「肩の理学療法評価」で詳しく解説しています。

一度眠れるようになっても、その後の経過は一直線ではなかった

約4週の時点で「夜眠れるようになった」と話されていた白木さんですが、その後「パッタリと夜間時痛が無くなった」というわけではなく、実は5か月頃まで夜間痛がみられ、医学的な処置が継続されていました。

このように、夜間時痛は0か10かの症状ではなく、断続的に回復をたどることもあります。

「良くなったと思ったら悪くなった」と落ち込まれるかもしれませんが、少しずつ「痛くない日」が増えていき、やがてほとんど痛くなくなった、という経験をする患者さんもよくいらっしゃいます。

最終記録では痛みはなかったが、動きの制限は残っていた

手術から数か月をかけて、可動域訓練や筋力回復の運動も段階的に進められました。

以下は、肩関節挙上(腕を上げる運動)可動域の回復経過です。

  • 術後2か月:自分で上げる動き 40度 / 支えて動かす動き 80度
  • 術後4か月:自分で上げる動き 70度 / 支えて動かす動き 115度
  • 術後8か月(最終記録):自分で上げる動き 80度 / 支えて動かす動き 130度

約8か月時点のでは、白木さん自身から「痛みは全くない」という言葉が聞かれています。

しかしこの表からわかるように、自分で腕を持ち上げる角度(自動挙上80度=腕が半分未満しか持ち上がらない)などに、肩の機能不全が多く残っていました。

「痛みが完全になくなること」と「肩の動きが完全に元の状態に戻ること」は必ずしも一致しないのです。

白木さんも、痛みが取れたからリハビリ終了、とはならず、残された肩の機能をさらに高めるための運動(腱板エクササイズなど)を継続していくこととなりました。

※筋力や負荷を段階的に戻していく考え方は「肩筋トレ」を参考にしてください。

この実例から考える|術後リハビリで大切なこ

腱板断裂の手術を受けた76歳男性・白木さんの実例からわかるポイントは、以下の通りです。

痛みを我慢してスケジュールを優先しない

強い夜間痛が続いている場合は、回復のスケジュールだけを根拠に運動を進めるのではなく、その時点の症状を踏まえて方針を見直していくことが重要です。

違和感や強い痛みが続くときは医師へ相談する

白木さんのようにリハビリテーションの工夫やポジショニングを行ってもすぐには夜間痛が改善しないケースもあります。

患者さん自身が我慢し続ける必要はありませんし、理学療法担当者も自分だけで解決しようとせず、早めに医師に相談することが重要です。

この一例だけから腱板断裂術後の標準経過は決められない

最後に、実例記事を読む上での注意点をお伝えします。

この男性の経過は、あくまで一つの臨床記録です。

「腱板断裂の手術後は誰でも4週で眠れるようになる」「夜間痛は必ず5か月続く」といったように、すべての人に当てはめることはできません。

断裂の大きさ、腱の質、年齢、手術方法、生活環境によって、回復のスピードや現れる症状は一人ひとり大きく異なります。

あなた自身の術後の経過について不安や疑問がある場合は、インターネットの体験談だけで判断せず、必ず主治医や担当の理学療法士に現状を相談してください。

まとめ|患者の状態を見ながら次の段階へ進む

腱板断裂手術後の白木さんの実例から学べるポイントは以下の通りです。

  1. 術後リハビリでは「夜に眠れること」が最優先の生活課題になり得る
  2. 枕などのポジショニングを試しても十分な変化が得られない場合がある
  3. 理学療法士が抱え込まず、医師へ正確な情報を共有して再評価を仰ぐ判断が重要である
  4. 一度「眠れるようになった」という自覚が出てきても夜間痛への対応が続いており、一時点の改善だけでは経過全体を判断できなかった
  5. 痛みが完全に消失しても、肩の動く範囲や筋力に制限が残ることがある
  6. 術後のスケジュール(プロトコル)だけで判断せず、その時点の身体状態を確認しながらリハビリを進める

肩の手術後の回復は、あらかじめ決められた正解のスケジュールをただ消化していくものではありません。

患者さんの身体の反応を医師や理学療法士が丁寧に確認し、安全を守りながら一歩ずつ進めていく共同作業なのです。

現在の困りごとや知りたい内容に合わせて、以下の関連記事もぜひ参考にしてください。