「肩が痛くて腕が上がらない」
「夜になると肩がズキズキ痛む」
「五十肩だと思っていたら、病院のMRIで腱板断裂と言われた」
「腱が切れていると言われたけれど、手術をしなければならないのだろうか」
肩に強い痛みや動かしにくさが出たとき、このように不安を感じる方は少なくありません。
しかし、腱板断裂は、「画像上で腱板が切れていること」と「現在の痛みや腕の動かしにくさ、生活上の困りごと」を分けて考えることが大切です。
画像で断裂が確認されたからといって、それが現在のすべての症状を直接決定づけているとは限らず、必ずしもすぐに手術が必要になるわけでもありません。
この記事では、腱板断裂の基本的な病態や症状、五十肩との違い、診断や治療(保存療法・手術)の考え方について、理学療法士の視点からわかりやすく解説します。
腱板断裂とは?
まずは、「腱板(けんばん)」とは何なのか、そして「断裂」とはどのような状態を指すのかを整理しておきましょう。
肩関節は、人体の中で最も大きく動く関節です。その深層には、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょっかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)という4つの筋肉が存在します。
これらの筋肉の腱が合流し、上腕骨頭(腕の骨の頭)を包み込むように板状につながっている部分を「腱板(ローテーターカフ)」と呼びます。
細かい解剖図や走行は、WEBで検索するとすぐに出てきますが、
腱板は、腕を動かすときに肩関節の奥から安定性を保ち、さまざまな方向へ腕を動かす働きに関わっている、ということをまずは覚えてください。
腱板断裂は、腱組織に亀裂や断裂が生じた状態です。医学的には、大きく以下の2つに整理されます。
- 部分断裂(partial-thickness tear):腱の厚みの一部にとどまる断裂。腱の厚み全体までは達しておらず、一部がつながっている状態です。
- 全層断裂(full-thickness tear):腱の厚み全体に達している断裂。腱の厚みを貫通している状態を指します。
「切れている」と聞くと腱全体が完全に離断してしまっているイメージを持ちやすいですが、厚みの一部が傷んでいる部分断裂から、厚み全体に達している全層断裂まで、状態には幅があります。
腱板断裂ではどんな症状がみられる?
腱板断裂では、肩関節を中心にいくつかの特徴的な症状がみられることがあります。
ただし、断裂があっても、必ずすべての症状が出るというわけではありません。
腕を横や前へ持ち上げる途中で、痛みや引っかかり感が生じることがあります。
腱板断裂では「肩が上がらない」という訴えが多くみられますが、その背景にはいくつかの異なる要因があります。
- 痛みが強いために反射的に力を入れられず、腕を上げられない
- 腱の連続性が損なわれ、筋力を発揮しにくいために上がらない
- 関節周囲が固まってしまい、物理的に動く範囲が狭くなっている
このように、「上がらない」という一つの現象でも要因は同一ではありません。
就寝時に痛む側の肩を下にして寝られない、寝返りを打ったときに痛みで目が覚めるなど、夜間の痛みがみられることがあります。ただし、夜間痛は腱板断裂だけでなく五十肩などでもよくみられる症状です。
なぜ腱板は断裂するのか?
腱板が断裂する原因は一つだけではなく、大きく「外傷をきっかけとする場合」と「加齢や腱の変性を背景とする場合」に分かれます。
転倒して手を強くついた、重いものを無理に持ち上げた、スポーツで強い外力が加わったなど、明らかなきっかけを機に腱板が傷つくケースがあります。
明らかなケガがなくても、加齢に伴う腱の変性などを背景として腱板断裂がみられることがあります。
医学的な研究では、中高年以降において「画像検査で腱板断裂が確認されても、肩に強い痛みや生活上の支障を感じていない人(無症候性断裂)」が一定の割合で存在することが知られています。
このことは、「画像上の断裂」と「自覚される痛みや不調」が必ずしも一対一で直結するわけではないことを示しています。
腱板断裂と”五十肩”ほどう違う?
いわゆる「五十肩」と「腱板断裂」は、どちらも中高年に多く、腕が上がらない・夜痛むといった症状が似ているため混同されやすい疾患です。
| 項目 | 腱板断裂 | 五十肩(凍結肩) |
|---|---|---|
| 主な病態 | 腱板組織の構造的な断裂 | 関節包を中心とする組織の変化・拘縮 |
| 自分で動かす範囲(自動運動) | 制限されることがある | 制限されることがある |
| 他者が動かす範囲(他動運動) | 比較的保たれる場合もある | 他者による動きも制限されることが多い |
| 筋力 | 発揮しにくくなる場合がある | 痛みや拘縮で発揮しにくい場合がある |
注意:上記の比較表は一般的な特徴を整理したものであり、自己判断のための確定基準ではありません。実際には、腱板断裂と肩の拘縮が併存する場合もあり、症状だけで見分けることはできません。
五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩)の全体的な病態や経過については、関連記事『五十肩・肩関節周囲炎』で簡単に解説しています👇
腱板断裂はどうやって診断する?
腱板断裂の診断は、医師が問診、身体診察、そして画像検査を組み合わせて総合的に行います。
レントゲンは骨の状態を確認する検査であり、腱板そのものを直接写し出すことはできません。
骨の変形や骨棘(骨のとげ)、関節の隙間、石灰沈着の有無など、他の病態を確認するために用いられます。
肩を動かしながら、腱板の連続性や厚みなどを確認できる検査です。
腱板断裂の有無や部位、大きさ、周囲の筋肉の状態(萎縮や変性の程度)などを詳しく確認するために有用な検査です。
ここで特化すべきは、「MRIで断裂が確認されたこと」と「現在の肩の痛みがすべてその断裂によって引き起こされているか」は別の問題であるという点です。
医師は画像所見だけでなく、身体診察や本人の自覚症状を照らし合わせて総合的に判断します。
腱板断裂は自然に治る?放置しても大丈夫?
断裂が画像上残っていても、保存療法によって痛みや機能が改善する人はいます。
腱の断裂が存在していても、周囲の筋肉の働きや痛みのコントロールによって、痛みが和らぎ、腕をスムーズに動かせるようになるケースは少なくありません。
ただし、全層断裂では、経過の中で断裂サイズが拡大したり、筋肉の萎縮などが進んだりする場合も報告されています。
そのため、経過観察の必要性や確認方法については、断裂の状態や症状に応じて医師と相談することが大切です。
腱板断裂を「治す」には、絶対に手術、というわけではありません。
近年の診療ガイドライン等でも、症候性の全層断裂に対して、理学療法などの保存療法によって痛みや機能が改善する人がいることが示されています。
治療方針の決定においては、主に以下のような要素を医師が総合的に判断します。
- 外傷性か、明らかなきっかけのない変性によるものか
- 部分断裂か全層断裂か、断裂の大きさはどの程度か
- 筋力低下や腕の動かしにくさ(機能障害)の程度
- 年齢や日常の活動状況(仕事・家事・スポーツなど)
- 理学療法や薬物療法などの保存療法を行った際の反応
一律に「即手術」あるいは「手術は不要」と決めるのではなく、個々の状態に合わせて適切な方針が検討されます。
腱板断裂のリハビリでは何を確認する?
医療機関でのリハビリテーション(理学療法など)では、画像所見だけを見るのではなく、実際の身体機能や生活動作を多角的に評価します。
- 痛みの出る方向や強さ
- 自分で動かせる範囲(自動運動)と他者が動かしたときの範囲(他動運動)
- 肩を動かしたときの筋力や、腱板に関係する所見
- 肩甲骨や背骨(胸郭・頸部)の動きや連動性
- 着替え、洗髪、物を持ち上げるなど、日常生活で具体的に何に困っているか
リハビリは「腱板が切れているかどうか」だけで内容が決まるのではなく、残された機能をどのように活かし、肩全体の動きをどう整えるかを評価して組み立てられます。
腱板断裂で行われる運動・リハビリの考え方
腱板断裂に対する運動療法では、「とにかく肩を鍛えればよい」「切れているから絶対に動かしてはいけない」といった極端な方法は適しません。
評価結果によっては、可動域を保つ運動や肩周囲の筋機能を確認する運動などが選択されます。
ただし、断裂の状態や痛み、治療方針によって適切な負荷は異なります。
状態や時期に応じた適切な運動の進め方については、今後、以下のような記事を順に公開していくので参考にしてください。
- 肩の柔軟性や可動域に対する考え方 → 『肩のストレッチ』
- 肩周囲の筋力や安定性を保つ考え方 → 『肩の筋力トレーニング』
「首が悪い」と思っていたら肩にも問題があった実例
臨床では、本人が訴える症状の部位と、実際の機能的な問題が異なるケースも存在します。
本サイトの実例でも、首の痛みを訴えていた若手ダンサーを評価する中で、肩腱板の部分断裂が確認されていました。首の症状だけに注目せず、肩を含めて評価していた一例です。
こんな場合は医療機関へ相談を
肩の痛みや動かしにくさが続く場合や、日常生活に支障がある場合には、整形外科などで状態を確認してもらうことを検討してください。
特に以下のような状態があるときは、早めに医師の診察を受けてください。
- 肩の痛みや腕の上がりにくさが数週間以上続いている
- 夜間の痛みで睡眠に支障が出ている
- 転倒や打撲などのケガをきっかけに痛みが引かない
- 転倒や衝突などの外傷後、急激に腕がほとんど上がらなくなった
- 腕に急な明らかな脱力や筋力低下が生じた
- 肩の関節部分に明らかな変形や異常な腫れがある
- 腕や手先にかけて強いしびれや麻痺が進行している
- 発熱や全身の悪寒、強い倦怠感を伴っている
腱板断裂と向き合う上で大切なポイントは以下の通りです。
- 腱板断裂では、肩の痛み、夜間痛、腕の上がりにくさ、筋力低下などがみられることがある
- 五十肩と症状が重なりやすいため、症状の見た目だけで自己判断はできない
- 「画像上の断裂」と「現在の症状や不自由さ」は必ずしも一対一ではない
- 腱板断裂があるからといって、すべてが即手術になるわけではない
- 画像だけでなく、痛み・可動域・筋力・生活動作を総合的に評価することが大切である
「腱が切れている」という言葉だけに過度にとらわれず、ご自身の現在の症状や生活での困りごとに合わせた適切な対応を選んでいきましょう。
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