「腕を上まで持ち上げようとしても、途中で止まって上がらない」
「つり革に手が届かない、高い棚の物が取れない」
「五十肩なのか、それとも腱が切れているのか不安になる」
肩が上がらない(腕が上がらない)状態になると、日常生活のさまざまな動作に支障が出て、何が起きているのか分からず不安を感じる方は少なくありません。
しかし、「肩が上がらない」という結果は同じでも、その背景は一つではありません。
腕が上がらないとき、上がる角度だけで病名を決めることはできません。
「なぜ上がらないのか」、そして「その腕で何をしたいのか」まで含めて整理していくことが大切です。
この記事では、肩が上がらない背景の切り分け方や、自動運動と他動運動の違い、考えられる状態、理学療法士が確認する着眼点についてわかりやすく解説します。
肩が上がらないとはどのような状態?
「肩が上がらない」背景を整理するとき、医療現場では主に以下のような違いを確認します。
これらは自己診断のラベルではなく、状態を多角的に把握するための入口です。
動かそうとすると肩に強い痛みが走り、痛みを避けるために途中で動きを止めてしまう状態です。
痛みが主で、痛むけれど何とか動かせる場合の考え方については以下の記事をご覧ください👇
痛みはそれほど強くないか我慢できるものの、腕を持ち上げる筋力をうまく発揮できず、途中で支えきれなくなる状態です。筋肉や腱、神経の機能などが関係している可能性があります。
自分で動かしても、他者に動かしてもらっても動く範囲が狭い場合があります。
このような場合には、関節包を含む周囲組織の拘縮など、可動域そのものを制限する要素がないかを確認します。
過去の脱臼や関節の緩さがあり、腕を上や後ろへ動かすと「外れそう」「抜けそう」という恐怖感から動きを制限してしまう状態です。
自分では上がらない?他者に動かされても上がらない?
肩の動かしにくさを確認する際、理学療法では「自分で動かす場合」と「他者に動かしてもらう場合」を両方評価することがあります。
- 自動運動:自分の力で腕を持ち上げる動き
- 他動運動:本人は完全に脱力をし、他者に腕を持ち上げてもらう動き
自分で持ち上げることは難しいものの、他者が支えて持ち上げるとスムーズに上まで動くケースがあります。
この場合、痛みによって力を出しにくくなっていないか、肩周囲の筋力や腱板の働き、神経機能などをさらに確認する材料になります。
自分で力を入れても、他者が持ち上げようとしても、同じように途中で固まって動かないケースがあります。
この場合、関節包をはじめとする関節周囲の組織の拘縮など、可動域そのものを制限する要素がないかを確認する手がかりになります。
「他動では動くから腱板断裂」「他動でも動かないから関節が固まっている=“五十肩”」といったように、単一の要因だけで病名を確定することはできません。
詳しい理学療法評価の流れについては、今後の記事で解説しています。
肩が上がらないときに考えられる主な状態
肩が上がらない背景には、いくつかの病態や組織の状態が関わっている可能性があります。
五十肩・凍結肩では、痛みとともに自分で動かす範囲だけでなく、他者に動かしてもらった場合の可動域も制限されることがあります。関節包を中心とした組織の変化が関係すると考えられています。
肩を支える腱板に断裂や損傷があると、腕を持ち上げる力を発揮しにくくなったり、痛みで支えきれなくなったりすることがあります。
転倒して手を強くついた、肩を強く打ったなどの外傷後に急に上がらなくなった場合、骨折、腱板損傷、脱臼、神経の損傷など複数の可能性を考慮して評価する必要があります。
過去の脱臼歴や関節の不安定性により、腕を上げた位置で外れそうな不安感が生じ、腕を持ち上げにくくなることがあります。
首(頸椎)の神経や肩周囲を通る末梢神経の障害によって、腕を持ち上げる筋肉に力が入らなくなっているケースもあります。
肩が上がらないとき、肩甲骨や体幹も見るのはなぜ?
肩関節そのものの動きが制限されているとき、身体は別の部分を使って目的を達成しようとします。
肩の関節(肩甲上腕関節)だけでは十分な挙上動作は達成されません。
肩をすくめる方向に肩甲骨を高く引き上げ、身体(体幹)を横に傾けたり伸ばしたりして、手を目的の高さまで運ぼうとする様子からわかるように、肩の関節以外の複数の動きが合わさって「肩を上げる(腕を上げる)」ことができます。
このような「肩の関節以外の体の動き」に多くを頼ることを、「代償動作」と呼ぶ場合があります。
「代償動作」は、時に「見せかけの動き」と捉えられることもありますが、単に「崩れた悪い動き」と決めつけるものではありません。
痛む肩をかばいながら、日常生活で手を上へ伸ばすために身体が選んでいる適応戦略である場合もあります。
理学療法では、代償を無理に矯正すること自体を目的とせず、その人が実際にどのように目的動作を成立させているのかを確認します。
何度上がるかだけでは分からない|生活で何ができないかを見る
肩の評価において、「角度が何度上がったか」という数値だけを見ることはしません。
「髪を洗うときに後頭部まで手が届かない」「ドライヤーをかける姿勢を保てない」「下着を背中でつけられない」「キッチンの吊戸棚から食器を取り出せない」など、腕を上げる高さや動かす方向、姿勢の保持によって困りごとが生じます。
また、マンションの洗濯物を物干し竿に干せない、仕事で高い位置の作業や荷物の持ち上げができない、スポーツで腕を高く使えないなど、生活・仕事環境によっても、求められる動きはさまざまです。
重要なのは、角度の数値そのものよりも、「その腕を使って、実際の生活で何ができるようになりたいか」という目標です。生活上の具体的な課題を把握することが、適切な対応につながります。
実際の症例では「肩が上がらない」をどう評価するか
実際のリハビリテーション現場でも、「肩(腕)が上がらない」という主訴から生活動作の目標へと視野を広げて評価が行われます。
肩関節周囲炎と診断された50代の現役世代の方の実例では、「通勤するときにつり革に捕まれない」「洋服の着脱を楽にしたい」という訴えを丁寧に汲み取ります。
「肩が上がらない」という解剖学・運動学的な現象だけでなく、患者さんの属性や生活背景、希望に合わせて評価・アプローチすることが重要なのです。
理学療法士は「肩が上がらない」とき何を見る?
医療機関での理学療法では、以下のようなポイントを総合的に確認します。
- 痛みの有無や強さ、質、どの動き・角度で痛むか
- 自分で動かせる範囲と、他者に動かしてもらったときの違いなど、関節運動の詳細
- 腕を持ち上げたり支えたりする筋力
- 腕を動かす際の肩甲骨や胸郭、体幹の使い方
- 服の着脱や洗髪など、日常生活で具体的に困っている動作 など
ストレッチすれば肩は上がるようになる?
最近は、WEB上で気軽に情報を得て、専門的な内容を扱う動画まで簡単に探せるようになりましたが、自分が今どういう状態なのか、どのメニューが自分に当てはまるのか、といったことを自分自身で突き止めるのはとても難しいことです。
「肩が上がらないから、とにかく○○ストレッチで伸ばせばよい」、などと一律に考えることはできません。
背景によってはストレッチは対応せず、かえって症状が強くなる場合もあります。
こんな場合は医療機関へ相談を
肩が上がらない状態が続く場合や、急激な変化があった場合は、整形外科を受診して適切な評価を受けましょう。
- 徐々に肩が上がりにくくなり、改善傾向がみられない
- 動かしにくさのために洗髪や更衣、仕事などに支障が出ている
- 夜間に肩が痛んで目が覚める
- 腕に力が入りにくい感覚が続いている
- 転倒や衝突などの外傷直後から、急激に腕がほとんど上がらなくなった
- 肩の関節部分が明らかに不自然に変形している
- 腕に急な明らかな脱力が生じ、だらんと垂れて力が入らない
- 腕や手先にかけて強いしびれや麻痺が急速に進行している
- 発熱や著しい腫れ、激しい安静時痛を伴っている
- 手先が冷たくなったり、色が青白くなったりしている
- 胸の圧迫感や息苦しさなど、肩以外の身体の異常を伴っている
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