腕を上げると肩が痛いのはなぜ?考えられる原因と対処法を理学療法士が解説

「腕を上へ持ち上げようとすると、肩の奥がズキッと痛む」
「洗濯物を干すときやつり革をつかむときに肩が痛い」
「五十肩なのか、それとも腱が切れているのか不安になる」

腕を上げるときに肩の痛みを感じると、「自分の肩の中で何が起きているのだろう」「動かしてよいのだろうか」と悩む方は少なくありません。

しかし、「腕を上げると痛い」という症状は特定の病名そのものを指すわけではありません。

痛みが出る角度や方向は、病名を決める答えではなく、次に何を確認するかを考える手がかりです。

この記事では、腕を上げると痛むときの場面ごとの整理や、考えられる肩の状態、理学療法士が確認する着眼点、日常での向き合い方についてわかりやすく解説します。

腕を上げると痛いときのよくある場面

「腕を上げると痛い」といっても、どのような動作や方向で痛むかは人によって異なります。まずは、日常で痛む場面を整理してみましょう。

前から上げると痛い・横から上げると痛い

前に向かって腕を持ち上げるとき(屈曲)に痛む場合や、横から外側へ広げるように持ち上げるとき(外転)に痛む場合があります。

電車のつり革をつかむ、服の袖に腕を通す、横の物を取るといった日常動作で症状を自覚しやすい場面です。

上げる「途中だけ」痛む

腕を持ち上げていく途中で強い痛みや引っかかり感があり、そのまま上まで持ち上げきると痛みが少し和らぐことがあります。

腕を上げる途中だけ痛むかどうかも、肩を評価するときの手がかりの一つです。ただし、痛む角度だけから腱板断裂や特定の病態を判断することはできません。

上まで上げきったときや、下ろすときに痛む

腕を真上まで伸ばしきった最終段階で詰まるように痛む場合や、逆に上げた腕をゆっくり下ろしてくる瞬間に支えきれずズキッと痛む場合もあります。

このように、どの方向・どの場面で痛むかは、その後の評価で何を確認するかを考える材料になります。

腕を上げると痛むとき、どのような状態を確認する?

腕を上げたときの肩痛には、いくつかの病態や組織の状態が関わっている可能性があります。

腱板やその周囲が関係する肩痛

腱板や滑液包など、肩の周囲の組織が関係する肩痛があります。腕を上げるときに痛みが出ることがありますが、症状だけから「どの組織が痛みの原因なのか」を特定することはできません。

腱板の構造的な断裂が疑われる場合の考え方については、関連記事『腱板断裂』で詳しく解説しています。

通称「五十肩」・肩関節周囲炎

「五十肩」や凍結肩では、関節包を中心とした組織の変化や拘縮がみられることがあります。

腕を上げるときだけでなく、外側にひねる動きや背中に手を回す動きなど、複数の方向で制限や痛みがみられる傾向があります。

五十肩の詳しい病態や経過については『五十肩・肩関節周囲炎』の記事をご覧ください。

石灰沈着性腱板炎

腱板の中にリン酸カルシウムなどの結晶が沈着し、急激な炎症と激痛を引き起こす状態です。

安静にしていても強く痛み、腕を動かすことが著しく困難になることがあります。

肩関節不安定症

過去の脱臼・亜脱臼や肩関節の不安定性がある場合には、腕を大きく上げたときや後ろへ引いたときに「外れそう」「ぐらつく」といった不安感とともに痛みが生じることがあります。

脱臼後の再発や不安定性に関する詳しい解説は『反復性肩関節脱臼』の記事を参考にしてください。

頸椎・神経など肩以外の影響

首の骨や神経の圧迫(頸椎症など)によって、肩や腕へ痛みが放散しているケースもあります。

肩そのものの動きだけでなく、首を動かした際の変化やしびれの有無なども確認が必要です。

「インピンジメント」と呼ばれてきた肩痛を現在はどう考える?

肩を上げると痛む状態について、以前から「インピンジメント(挟み込み)」という言葉が広く使われてきました。

これは、腕を上げたときに肩峰(肩の骨の出っ張り)の下で腱板や滑液包が機械的に挟まれる状態を指す言葉です。

しかし現在では、腕を上げたときの肩痛を単純な「挟み込み」だけで説明せず、腱板やその周囲の組織の状態、その他身体機能なども含めて評価する考え方が用いられています。

「骨の下で腱が挟まっているから痛い」と決めつけるのではなく、肩周囲の機能や動かし方などを広く確認することが大切です。

「痛いけれど腕が上がる」と「腕が上がらない」

腕を上げる動作に困っている場合、どのような制限があるのかを整理しておくことが役立ちます。

  • 痛いけれど自力で腕を上げられる:痛みはあるものの、自分で動かせる範囲は比較的保たれている状態
  • 自力では腕が上げにくい:痛みや筋力の発揮などが関係している場合がある
  • 他者に動かしてもらっても動きにくい:拘縮などを含め、関節そのものが制限されている可能性も考える

原因が「痛み」なのか「構造的な動く範囲の狭さ」なのかによって、評価の進め方や対応は変わります。

自分で腕を上げる場合と、他者に腕を動かされる場合も確認する

肩の動きを確認する際、理学療法評価では以下の2つの動きを比較することがあります。

  • 自分で力を入れて腕を持ち上げる動き(自動運動)
  • 力を抜いた状態で、他者に腕を持ち上げてもらう動き(他動運動)

自分で動かすと痛くて上がらない場合でも、他者に動かしてもらうとスムーズに上がることもあれば、他者が動かしても固まって充分に動かないこともあります。

この違いは、痛み、筋力、関節の動く範囲など、どの要素をさらに確認する必要があるかを考える材料になります。

ただし、自動運動と他動運動の差だけで腱板断裂や五十肩などを診断することはできません。

肩甲骨や胸郭も確認するのはなぜ?

腕を真上まで持ち上げる動きは、肩の関節(肩甲上腕関節)だけで行われているわけではありません。

腕を上げる際には、肩甲骨や胸郭も動きに関わります。

そのため、腕を上げる際に肩甲骨や胸郭がどのように動いているかも、必要に応じて確認します。

実際の理学療法では「上げると痛い」かどうかを診るわけではない

臨床の現場でも、「腕を上げると痛い」という訴えに対して、肩の痛みだけを切り取って判断することはありません。

実際に、肩関節周囲炎とされた患者さんから、「肩を上げると痛い・上がりにくい」という訴えがあったとすると、

肩の動く範囲だけでなく、自分で腕を上げた場合と他者に動かしてもらった場合の違い、胸郭や肩周囲などの肩以外の身体状態、更衣などの生活動作などまで確認していきます。

医療機関での理学療法では、単に痛む場所を押すだけでなく、以下のようなポイントを総合的に確認します。

  • どの方向・どの角度で痛むか
  • 自分で動かしたときと他者が動かしたときの範囲の差
  • 肩周囲の筋肉に力を入れたときの痛みの有無や筋力
  • 肩甲骨や胸郭など他の身体部位がどのように働いているか
  • 洗濯物を干す、高い所の物を取る、着替えるなど、実際の生活でどの動作に困っているか

これらを一つずつ確認しながら、現在の肩の状態に応じた適切なアプローチを検討していきます。

痛みがあるときに自分でできること

肩に痛みがあるときは、自己流で無理な運動を行う前に、日常での負荷を調整することが大切です。

痛みを無理に確認・再現しない

痛みを何度も強く再現するような動作は避け、いったん負荷を調整しましょう。

日常動作での工夫と負荷の調整

  • よく使う物の置き場所を低い位置へ移すなど、腕を高く上げる作業を減らす
  • 重い荷物を痛む側の腕で持ち上げるのを避ける
  • 服を着るときは痛む側の腕から先に袖を通し、脱ぐときは痛くない側から脱ぐ

こんな場合は医療機関へ相談を

肩の痛みが続く場合や日常生活に支障がある場合は、自己判断を続けずに整形外科を受診しましょう。

早めに整形外科へ相談したい目安

  • 腕を上げるときの痛みが続いており、改善傾向がみられない
  • 痛みのために洗濯や着替えなどの日常動作がつらい
  • 夜間にも肩がズキズキ痛んで目が覚める

速やかな医学的評価が必要なサイン

  • 転倒や衝突などの外傷後から急激に腕が上がらなくなった
  • 腕に力が入らず、だらんと垂れてしまうような急な脱力がある
  • 肩の関節部分が明らかに不自然に変形している
  • 腕や手先にかけて強いしびれや感覚の麻痺が急速に進んでいる
  • 発熱や全身の倦怠感、激しい腫れを伴っている
  • 胸の圧迫感や息苦しさなど、肩以外の身体の異常を伴っている

まとめ|「腕を上げると痛い」への向き合い方

腕を上げると肩が痛い症状と向き合う上で、大切なポイントは以下の通りです。

  1. 「腕を上げると痛い」という症状だけで病名を決めることはできない
  2. 痛む方向、途中で痛むのか、上げきって痛むのかなど、場面を整理することが大切である
  3. 痛いけれど動くのか、自分では上げにくいのか、他者が動かしても関節が固いのかによって状態は異なる
  4. 肩甲骨・胸郭などの他の部位の動きも確認材料になる
  5. 無理に痛みを再現せず、状態に合わせた適切な評価と対策を行う

これらによってすぐさま病名が決まるわけではなありませんが、現象を複合的に捉えて、その症状に最適な対応策を考える手がかりとなります。