関節リウマチで歩けなくなっても歩ける?|車椅子生活から歩行を取り戻した50代女性の実例

関節リウマチによる歩行の変化と、その先にある生活

関節リウマチが進むと、以前のように自分の足で歩くことは難しいのではないか、と不安を感じる方もいるかもしれません。

歩けなくなると、家の中を移動するだけでも時間がかかるようになります。

買い物や料理、家族との外出など、それまで当たり前だった暮らしにも少しずつ影響が広がっていきます。

今回ご紹介するのは、関節リウマチに加えて間質性肺炎(肺の壁に炎症が起こり、息切れなどが続く病気)や両側大腿骨頭壊死(股関節の骨が潰れてしまう病気)を抱え、自宅内で車椅子生活を送る時期があった沼田繭子さん(仮名・50代女性)の実例です。

度重なる入退院や予期せぬ感染症といった試練を経験しながらも、沼田さんは再び自分の足で歩けるようになり、少しずつ日常の範囲を広げていかれました

この記事では、病気そのものの経過だけではなく、歩けるようになることで暮らしがどのように変わっていったのか、その歩みを理学療法士の視点からご紹介します。

自宅内での車椅子生活と、狭まっていく日常

沼田さんは、リウマチと診断されてからも、しばらくは一本杖と4点キャスター付きのショッピングカートを使い、一人で買い物へ出かけたり、自宅で料理をしたりと、自立した生活を送られていました。

しかし、病状の変化や度重なる入退院を経験する中で、暮らしの様子は少しずつ変わっていきます。

両膝や股関節の痛みが強くなるにつれて立ち上がりが難しくなり、動くたびに痛みも強くなりました。

歩ける距離は徐々に短くなり、活動量も減少し、自宅内でも車椅子を使用する時間が増えていきました。

近所には娘さん一家が暮らしており、困ったときには助けを求められる環境がありました。しかし、娘さんも子育て中であり、日常生活をすべて支えてもらえる状況ではありませんでした。

沼田さん自身にも「できるだけ自分のことは自分で続けたい」という思いがありましたが、痛みと体力低下への不安から活動量はさらに減り、生活の範囲は少しずつ部屋の中へと狭まっていきました。

歩けなくなった背景には、いくつもの要因が重なっていた

沼田さんが歩けなくなった背景には、一つだけでは説明できない複数の要因がありました。

大きな要因の一つは、大腿骨頭壊死による強い股関節痛です。股関節の骨への血流が悪くなり骨が潰れてしまったため、人工骨頭置換術を受けました。しかし、長期間痛みをかばって生活していた影響は残っていました。

さらに、間質性肺炎の治療では強力なステロイド治療などが必要となり、その後は免疫力の低下に伴って菌血症という重い感染症も経験されています。

一般的に、高熱を伴う感染症や長期間の入院生活では、全身の筋力や体力が大きく低下することがあります。このような身体を動かさないことで起こる機能低下は「廃用症候群」と呼ばれています。

沼田さんの場合も、関節の痛みだけでなく、体力や筋力の低下が重なったことで、自力で歩くことが難しくなり、自宅で車椅子を使用する生活につながっていたと考えられます。

複数の原因が重なっていたからこそ、その時々の身体の状態を整理しながら、無理のない方法を考えていくことが歩行を取り戻すための第一歩になりました。

訪問リハビリでは、その日の身体を一緒に確認することから始め

訪問するたびに、まず確認していたのは「今日はどこまでなら安心して動けそうか」ということでした。

沼田さんには、病名と症状が複数あったため、前提として全身状態がどうなっているかを診なければいけません。

その上で、まずは自宅で安全に生活できる身体の状態かを確認することが大切だったからです。

そうしてどの程度活動可能であるかを確認した後に、リハビリは開始されます。

さらに、運動が可能だとしても、負荷のかけかたには細心の注意を要します。

たとえば、椅子から立ち上がるときや伝い歩きをするときには、膝や股関節へ負担が集中しない身体の使い方を一緒に確認し、痛みが強くならない範囲で動作を繰り返しました。

また、沼田さんは、午後になると痛みが強くなりやすい傾向にあったため、訪問時間も比較的動きやすい時間帯を選び、その日の疲れや痛みを確認しながら活動量を調整していきました。

おおまかに、

  • どのくらい動くと疲れが出るのか
  • 家事をした翌日に疲れが残っていないか
  • 少し歩いた後に痛みが強くならないか

こうした日々の変化を一緒に確認しながら、その日に合った活動量を決めていきました。

関節リウマチでは痛みや疲れ方に日内変動がみられることがあります。

そのため、毎日同じ内容を続けるよりも、その日の身体に合わせて生活を組み立てることが、長く歩き続けるためには大切になります。

歩きやすい身体づくりを支えた体重管理

沼田さんは経過の中で、約7kgの体重減少も経験されています。

一般的に、体重管理は股関節や膝関節への負担を軽くする一因になると考えられています。歩くときには体重の数倍の力が関節へ加わるとされているため、適切な体重を保つことは歩きやすさにもつながります。

(体重減少の影響に関しては別の記事でも取り上げていますのでご参照ください👇)

沼田さんの場合は、リウマチ治療のためにステロイド薬の内服が続いており、体重管理が難しい状況でした。

その中でも食事への工夫や日々の活動を続けた結果、体重が減少したことは、歩き続ける身体づくりを支える一つの要素になったと考えられます。

もちろん、歩けるようになった理由を体重だけで説明することはできません。股関節の手術による痛みの軽減、感染症からの回復、訪問リハビリの継続、その日の体調に合わせた活動量の調整など、さまざまな要因が重なった結果として歩行能力が改善していきました。

歩けるようになることで、暮らしは少しずつ広がっていく

人工股関節の手術後は、股関節の痛みが大きく軽減し、屋内での移動は少しずつ改善していきました。

自宅の中で動くことへの不安も和らぎ、車椅子で移動する場面は徐々に減っていきました。杖や伝い歩きを使いながら生活する時間が増え、日常生活動作(ADL)の改善や活動量の増加もみられるようになりました。

歩けるようになったことで、沼田さんの生活には次のような変化が生まれました。

  • 自分のペースで台所に立ち、料理を作れるようになった
  • 部屋の掃除や近所への買い物に出かけられるようになった
  • 近所に住むお孫さんのお世話を楽しめるようになった
  • 長時間の外出にも少しずつ自信が持てるようになった

歩行が安定したことで、「移動ができる」という変化だけではなく、「自分で生活を組み立てられる」という感覚も少しずつ戻っていきました。

理学療法士として感じたこと|歩くことは暮らしを支えるための力

リハビリでは、「何メートル歩けたか」「歩く速さがどれだけ改善したか」といった数字で表現しやすくなります。

しかし、沼田さんとの関わりを通して改めて感じたのは、歩くことには一人ひとり違った意味があるということでした。

歩けるようになることで、

「自分で料理ができる」

「買い物へ行ける」

「家族と出かけられる」

「住み慣れた家で暮らし続けられる」

こうした日常が少しずつ戻ってきます。

訪問リハビリでは、歩き方だけを練習するのではなく、「その人が毎日どんな生活を送りたいのか」を一緒に考えながら支援することを大切にしてきました。

歩くことは、それ自体がゴールではありません。

その人らしい暮らしを続けていくための、大切な力の一つなのだと感じています。

まとめ

関節リウマチやその合併症によって、一時は自宅内でも車椅子を中心とした生活となり、一人暮らしを続けられるか不安になることがあります。

沼田さんも、呼吸状態の悪化や股関節の痛み、感染症による再入院など、いくつもの出来事が重なり、歩くことが難しい時期を経験されました。

それでも、その時々の身体の状態に合わせながら必要な治療やリハビリを続け、生活の中で少しずつ歩く機会を増やしていくことで、再び自分の足で暮らしを支えられるようになっていきました。

関節リウマチの経過は一人ひとり異なります。体調や病状の変化によって思うように動けない時期があっても、その時の身体に合った方法を見つけながら生活を整えていくことはできます。

もう一度料理をする。もう一度買い物へ行く。もう一度自分の足で歩く。

そうした一つひとつの積み重ねが、その人らしい暮らしを少しずつ取り戻していく力になっていくのではないでしょうか。