股関節症でダイエットは必要?体重と股関節の関係を理学療法士が解説

股関節症と診断されると、

「体重を減らした方がいいですね」

と言われることがあります。

一方で、

「そんなに太っていないのに?」
「どれくらい痩せればいいんだろう」

と思った経験はないでしょうか。

実際、股関節症の方の中には、

BMI30以上の肥満体型の方
BMI22前後の標準体型の方

など、さまざまな体型の方がいます。

股関節症は、先天性の疾患などで、体重以外の要因で発症する方も少なくありません。

体重の影響は股関節だけでなく、膝や足首、腰などさまざまな関節にも及びますが、
その中でも股関節は、立つ・歩くといった日常動作のたびに大きな荷重がかかる関節です。
股関節症との関連について多くの研究が行われてきました。

では、なぜ整形外科では体重の話が出るのでしょうか。

本当にダイエットは必要なのでしょうか。

今回は、理学療法士としての経験と研究報告をもとに、股関節症と体重の関係について整理してみたいと思います。

股関節にはどれくらいの負荷がかかるのか

股関節は、身体の中でも特に大きな力がかかる関節です。

立っているだけでも体重を支えていますが、歩く・階段を上る・椅子から立ち上がるといった動作では、さらに大きな負荷が加わります。

歩行時の股関節への負荷は体重の約3〜5倍

研究では、歩行中の股関節には体重の約3〜5倍程度の力が加わることが報告されています。

例えば体重60kgの方であれば、歩くたびに180〜300kg程度の力が股関節周囲に作用する計算になります。
(ただし、これは300kgの重りが股関節に乗るという意味ではありません。筋肉の働きや関節反力(関節内に生じる力)を含めた力学的な計算です)

股関節は負担を受けやすい形状

さらに股関節は、体重を受ける関節のなかでも特に自由度が高い関節です。

骨盤と太ももの骨が球状にはまり込む構造になっているため、前後・左右・回旋とさまざまな方向へ動くことができます。

その分、歩行や方向転換などの日常動作では、単純に上からの重さを支えるだけでなく、前後左右から加わる力にも対応しなければなりません

それが、膝や足関節、背骨と比べても、股関節が大きな負荷を受けやすい理由のひとつです。

繰り返し蓄積される負担

しかし重要なのは、

体重が少し変わるだけでも、股関節にかかる力は毎日の歩行で繰り返し蓄積される

という点です。

例えば体重が5kg増えた場合、歩行時にはその数倍の負荷増加となって股関節へ伝わる可能性があります。

1日5,000歩歩く人であれば、その負荷は何千回も繰り返されます。

そのため整形外科では、股関節症の方に対して体重管理の話が出ることがあるのです。

股関節症の人は痩せた方が良いのか

結論から言うと、股関節症の方すべてにダイエットが必要なわけではありません。

まずは、ご自身が次のどちらに当てはまるかを確認してみてください。

体重管理を積極的に検討したい方

 ・BMI25以上で、ここ数年のうちに体重が増えている
・体重増加とともに痛みが強くなった
・活動量が減ってきた
・歩行距離が短くなった

このような場合は、体重を少し減らすことで股関節への負担が軽くなり、動きやすさが改善する可能性があります。

減量を優先しなくてよい方

・BMI20前後の方
・もともと痩せ型の方
・栄養状態に注意が必要な高齢者

このような場合は、無理に体重を減らすよりも、筋力維持や活動量の確保を優先した方がよいこともあります。

「何kg痩せれば良いか」ではなく「生活への影響」を考える

ここで大切なのは、「何kg痩せるば良いか」ではなく、

今の体重が生活にどのような影響を与えているか

を考えることです。

実際には、同じBMI25でも問題なく旅行を楽しめる方もいれば、数百メートル歩くのがつらい方もいます。
その違いには、以下の要素が関係しています。

筋力
・活動量
・年齢
・痛みの程度
・関節の状態

など。

まずは次のようなことを目安にするとわかりやすいでしょう。

・体重増加とともに症状や動きにくさが出ている
・体重は標準的で、むしろ筋力低下や活動量低下が目立つ
・運動や生活習慣の改善を優先する

股関節症の方がダイエットを考える理由は、見た目のためではなく、
股関節への負担や生活機能との関係を考えるためです。

つまり、

「股関節症だから痩せるべき」ではなく、

「今の体重が股関節や日常生活に悪影響を与えているなら、体重管理を検討する」

これが、現在の体重だけではなく、若い頃と比べてどれくらい体重が増えているかも含めて考える、実践的な考え方だと思います。

BMI25前後(軽度の肥満)でも影響はあるのか

肥満という言葉を聞くと、かなり体重が多い人の話、と思う方もいるかもしれません。

しかし、日本肥満学会ではBMI25以上を肥満と定義しています。

BMI25前後という体格は、整形外科の外来では決して珍しくありません。
私自身も、これまで多くの方を担当してきました。

実際の病院での診療では、関節の状態や痛み、関節可動域制限への治療が優先されます。

 そのためBMI25前後の体重は、どうしても主役になりにくい印象があります。

しかし、5kgの増量は決して小さくないことを知っていなくてはいけません
体重60kgの方が5kg増えると約8%の増加です。
歩行時には体重の数倍の力が股関節へ加わるため、その差は決して小さくありません。

もちろん、BMI25だから問題があるという話ではありません。
実際には、以下の要素によって影響は大きく異なります。

・筋肉量
・活動量
・年齢
・関節の状態

など。
ただ、BMI25前後は「高度肥満ではないから大丈夫」と見過ごされやすい一方で、
股関節への負担という視点では、一度考えてみる意味のある数字だと思います。

私がそう感じるようになったきっかけは、以前ご紹介した2人の女性との再会でした。

【体重が減ると生活はどう変わる?理学療法士として忘れられない2人の実例】

痩せれば股関節症は治るのか

結論として、体重を減らしただけで股関節症そのものが治るわけではありません。

繰り返しになりますが、股関節症には、以下のような多角的な要因が関係しているからです。

・生まれつきの要因(臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼の既往など)
・遺伝的な体質や関節の特徴などのなりやすさに関わる要因
・生活習慣や加齢による要因(体重増加、長年の負担、加齢変化など)
・繰り返しの負荷による関節軟骨の摩耗や損傷(仕事やスポーツなど)
・病気による関節や骨の変化(関節リウマチなどの膠原病、骨壊死など)

そのため、「痩せれば治る」という説明は正確ではありません。

一方で、「痩せても意味がない」とも言えません。

体重増加は「関節への負担」だけの問題ではない

近年では、股関節症の悪化には単に体重による負荷だけでなく、炎症の影響も関わっている可能性が注目されています。

脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、炎症に関わるさまざまな物質を分泌することが知られています。

肥満の状態が続くと体内では慢性的な炎症が起こりやすくなり、
その炎症が関節の痛みや変化に関与する可能性があります。

つまり、体重増加は「股関節に重さがかかる」という物理的な問題だけでなく、

関節にとって不利な体内環境をつくる

という意味でも考える価値があります。

理学療法士として感じていること

股関節症の方を担当していると、どうしても術後の状態としての機能面や、痛み、歩行能力に目が向きます。
それは当然のことです。

 体重は少し特殊な問題でもあります。

 痛みのようにすぐ見えるわけではありません。
 歩行速度のように測定しやすいわけではありません。

 術後の機能回復を考える場面でも、体重そのものが評価の中心になることは多くありません。
入院日数がどんどん減っている昨今はますます、生活指導は最低限にしぼられかねません。

しかし実際には、

体重増加による負担

活動量低下

筋力低下

痛みの増加


という機序は非常に多くの実例の背景に隠れており、決して無視できない課題と考えています。

参考文献

 ・Pottie P, Presle N, Terlain B, et al. Obesity and osteoarthritis: more complex than predicted. Ann Rheum Dis. 2006;65(11):1403-1405.(肥満と変形性関節症―予想以上に複雑な関係)

 ・Ouchi N, Parker JL, Lugus JJ, Walsh K. Adipokines in inflammation and metabolic disease. Nat Rev Immunol. 2011;11(2):85-97.(炎症および代謝性疾患におけるアディポカインの役割)

 ・Greene MA, Loeser RF. Aging-related inflammation in osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2015;23(11):1966-1971.(変形性関節症における加齢関連炎症)

 ・Messier SP, Mihalko SL, Legault C, et al. Effects of intensive diet and exercise on knee joint loads, inflammation, and clinical outcomes among overweight and obese adults with osteoarthritis. JAMA. 2013;310(12):1263-1273.(変形性関節症を有する過体重・肥満成人に対する集中的な食事療法と運動療法が膝関節負荷、炎症、および臨床転帰に及ぼす影響)