人工股関節の手術を控えた方や、手術を終えたばかりの方が、
「また海外旅行に行けるようになりますか」
と、本当に望んでいる大きなゴールを口にすることは、難しいのかもしれません。
なぜなら。
手術直後は、新しくなった自分の身体への戸惑いもあり、目の前の生活への不安のほうがずっと大きいものだからです。
ちゃんと歩けるようになるだろうか。
家のことはできるのだろうか。
そもそも、ほんとうに痛みはとれるのだろうか……
回復の実感は、こうした不安に駆られながらも、できることを増やしていく過程から少しずつ生まれていきます。
そして、買い物 → 電車移動 → 仕事 → 趣味、というふうに「日常」が少しずつ広く深く、確かなものとして戻ってきた先に、
かつての大きな願い「海外旅行に行きたい」に繋がっていきます。
及川謙子さん(仮名)も、その一人でした。
幼少期から股関節の問題を抱え、
身体障害者手帳4級を持ちながら生活してきた女性です。
一時は痛みのために仕事を諦め、一人暮らしの維持さえ危ぶまれていた及川さんですが、
手術から数か月後にはパート仕事を再開し、一人で電車に乗って娘さんの家を訪れ、
さらには諦めかけていた海外旅行まで実現されました。
これは単に「手術が成功した」という機能回復に留まる話ではありません。
ご本人が「仕事を取り戻した」「行きたい場所へ行けるようになった」という、生活と人生を取り戻した軌跡です。
制限されていた日常と、独居生活の現実
及川さんは60代後半の女性です。
彼女の生活は、3歳のときに受けた先天性股関節脱臼の手術から始まり、常に股関節の不調とともにありました。
若い頃には身体障害者手帳4級の認定を受けています。
それでも及川さんは、美容師として長年働き、水泳や旅行を楽しむなど、前向きに人生を歩んできました。
しかし、年齢を重ねるごとに股関節の痛みは増悪し、
大好きだった旅行だけでなく、最終的には仕事まで諦めざるを得ない状況になっていきました。
右股関節の痛みが急激に悪化した頃には、買い物や家事といった日常生活そのものが難しくなり始めていました。
「自力で動けない」ということは、そのまま自立した生活の破綻を意味します。
また、及川さんは一人暮らしでした。
娘さんは別の街に暮らして仕事をしており、義父母と同居していたため、
遠慮してしまい、すぐに駆けつけてもらうこともできません。
及川さんは、自分の力で暮らしを維持するために人工股関節全置換術(THA)を受ける決断をしました。
身体の再建から、確実な一歩を踏み出すまで
手術によって右股関節の構造的な変形は改善しました。
しかし、その後のリハビリは決して楽なものではありませんでした。
大きな課題となったのが、術前に存在していた約5センチ(48mm)の脚長差です。
長年、その脚長差に適応させて動いてきた身体にとって、手術によって左右の脚の長さが急に揃ったとしても、むしろ強い違和感を覚えてしまうものです。
術後のリハビリは歩行器から始まり、2本杖、1本杖へと段階的に進めていきました。
しかし、病院の平坦な床で歩けても、一歩外に出れば傾斜や段差が存在します。
一人暮らしの及川さんにとって、自宅での転倒は絶対に避けなければなりません。
そのため、退院時には屋外での移動に2本杖を使用するよう指導しました。
外来リハビリ当時の身体機能には、まだ以下のような課題が残っていました。
- 股関節が十分に後ろへ伸びない
- 太ももの前の筋肉が強く張っている
- お尻の筋肉(臀筋群)がうまく働かない
- 術側への荷重を無意識に避けてしまう
私たちは、単なる筋力トレーニングの反復にとどまらず、
「立ち上がる」「歩く」「体重を乗せる」といった日々の生活動作そのものを治療の手段として選択し、
身体が自然な使い方を思い出せるようアプローチを続けました。
外来終了後、4カ月後に見られた変化
数か月の外来リハビリ期間を終了してから4カ月後、検査で再会した及川さんの姿は、私たちの予想を良い意味で裏切るものでした。
変わったのは痛みや歩行のレベルだけではありません。
生活の範囲そのものが大きく広がっていたのです。
| 項目 | 退院前後 | 数か月後 |
|---|---|---|
| 移動手段 | 屋外では2本杖が必要 | 公共交通機関を利用して一人で移動 |
| 歩行能力 | 慎重な歩行 | 約1時間の連続歩行が可能 |
| 活動範囲 | 自宅周辺が中心 | 娘さん宅への訪問、旅行 |
| 仕事 | 痛みのため離職 | パート勤務を再開 |
| 趣味 | 外出機会が減少 | 海外旅行を再開 |
| 生活への自信 | 転倒への不安が強い | 積極的に外出 |
| 体重 | 63kg | 56.5kg |
何より、痛みのために諦めた仕事への復帰を、自らの意思で選択していたことは印象的でした。
また、一人で電車に乗って娘さんの家へ行けるようになったことも、独居生活を送る彼女にとっては単なる移動能力の回復以上の意味を持ちます。
必要なときに買い物へ行き、会いたい人に会いに行き、自分の予定を自分で決められる。
そんな生活の自由を取り戻した証だったからです。
さらに、口に出さずに諦めていた海外旅行の実現。
自宅周辺の歩行すら不安を抱えていた退院時から、数か月の外来リハビリを経て、立ち止まることなく身体をさらに改善させて、海外へ足を運ばれたその行動力は、病院の専門職の検討会だけでは捉えきれない変化でした。
理学療法士として印象に残ったこと
この実例を通じて、反省点として思い知らされたのは、
患者さんの本当の希望を、最初に思い描けてはいなかったという、自分の甘さです。
「また海外旅行に行けるようになりますか」
という言葉を、及川さんは私には発さなかった。
そして、私が全くアプローチしてなかった点。
ダイエットの効果についてです。
再会した際、及川さんの体重は思いがけず6.5kg減少していました。
及川さんは病院でのリハビリを終えた後も、自身の身体づくりを継続されていましたが、
6.5kgの減量の直接のきっかけとなったのは、その後に通ったRIZAP(ライザップ)のシニア向けプログラムの利用によるものだそうです。
👇RIZAPについては、以下の記事でも紹介しています。
●ライザップ(RIZAP)のシニアプログラムとは?健康寿命を伸ばす秘訣を解説
●ライザップはシニアでも大丈夫?60代・70代の体験談と口コミを理学療法士視点で解説
●【中高年・高齢者】介護保険を卒業し、RIZAPで自分の生活を取り戻す
●腰椎圧迫骨折の既往がある麻生睦美さん(66)の場合、ライザップ(RIZAP)のストレッチメニューがどう活かせるか
及川さんは、手術後から外来までの病院のリハビリでも、確実に成果を得ていました。
人工股関節によって長年の痛みが軽減し、約5センチの脚長差が解消されたこと。
退院後も自主トレーニングを継続されていたこと。
これらが積み重なり、まず「歩くことへの不安」が小さくなりました。
そして、さらにその後、ご自分の意思で、民間のボディメイクプログラムに挑戦したとは、本当に驚きでした。
及川さんは、最終的に、
- 仕事を再開した
- 外出機会が増えた
- 海外旅行へ出掛けた
という本当の希望を、自らの意思で叶えたのでした。
「また働けるようになったんです」
「旅行にも行けました」
と嬉しそうに話してくださった表情が、今も強く印象に残っています。
【追記】専門職向け補足:リハビリで見ていたポイント
・症例データ:60代後半女性、158cm、63kg、BMI25.2。独居。元美容師。趣味は水泳と旅行。先天性股関節脱臼の手術既往あり。身体障害者手帳4級。
・評価・課題:術前脚長差48mm。退院時は屋外2本杖。股関節伸展制限、大腿四頭筋のタイトネス、臀筋群の出力低下、患側への荷重不良を認めた。
・アプローチ:筋力トレーニングのみではなく、起立・歩行・支持性向上など実生活に直結する動作練習を中心に実施。動作の再学習を通して、荷重の安定と生活場面での汎化を促した。
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