幼少期から股関節痛と向き合ってきた女性の再出発|両側人工股関節置換術後の変化

半年ぶりに再会した担当患者さん、吉成芙美(仮名)さんを見て、私は少し驚きました。

化粧をしていました。

立ったまま靴を脱いでいました。
(外来でリハビリをしていた時は、座ってでもぎこちなかった)

階段も手すりなしで1足1段ずつ昇り降りしていました。

そして、

最近よく出掛けるんです

と笑っていました。

半年前、私たちは歩き方や身体の使い方について何度も話し合っていました。

右脚が短く感じる。
左膝が内側に入る。
骨盤がうまく動かない。

痛みは軽くなっているのに、身体は長年の癖を残していました。

しかし、その日私の目に映ったのは検査結果ではありませんでした。

生活を取り戻した一人の女性の姿でした。

吉成さんは、幼少期から股関節の問題を抱え、これまで何度も手術を受けてきた方です。

今回ご紹介するのは、そんな吉成さんとの忘れられないリハビリ経過です。

※吉成さんは、『体重が減ると生活はどう変わる?理学療法士として忘れられない2人の実例』で紹介したお一人です。
もう一人の実例も含めてご覧になりたい方は、こちらの記事をご覧ください。

幼少期から続いていた股関節の問題

吉成芙美さんは47歳の女性です。

診断名は両側変形性股関節症。
背景には先天性臼蓋形成不全がありました。

先天性臼蓋形成不全とは、股関節の受け皿が生まれつき浅く、股関節へ負担が集中しやすい状態です。
吉成さんは幼少期から股関節の問題を抱えていました。

これまでに受けた手術は、左右合わせて5回。
それでも痛みは完全にはなくなりませんでした。
むしろ5〜6年前から、両側の股関節痛は徐々に強くなっていきました。

他院では、

「まだ若いから人工関節はできるだけ先延ばしにしましょう」と言われていたそうです。
※吉成さん談。担当医師のお話は未確認です。

確かに47歳という年齢は、人工関節としては若い部類に入ります。
しかし、生活は待ってくれません

吉成さんは2世帯4人暮らしで、毎日の家事があります。
家屋も疾患用にはできておらず、寝室は2階。
痛みがあっても、階段を上らなければなりません。

そして、手術を先延ばしにしているうちに、40代後半となり、今の生活を維持することが困難になっていました

痛みが強くなり両側人工股関節置換術THA)を選択

吉成さんの自宅は2階建ての洋式スタイルでした。

居住スペースは主に1階にありましたが、寝室が2階にあるため、休むためには階段の昇り降りが避けられません。

さらに、自宅には約35cmという高い上り框(あがりかまち)の段差もあり、日々の家事や移動のたびに股関節へ負荷がかかり続けていました。

限界に達しつつあるある秋の日、吉成さんはそれまでと違う首都圏の実績のある整形外科を受診することを決意します。

レントゲンでは、大腿骨頭(太ももの骨の先端)が本来の位置から大きくずれ、脱臼した状態になっていました。(Crowe(クロウ)分類Ⅳ型と呼ばれる最重度の状態)でした。

先延ばしにするのではなく、今の生活を守るために根本的な治療を行う方針となり、数か月後、両側同時に人工股関節全置換術(THA)が施行されました。

術後の生活

術後、吉成さんの日常生活での動きは大きく変化しました。

術前は2本のロフストランドクラッチ(前腕支持型杖)を頼りに、骨盤を前傾させた姿勢で歩いていましたが、
術後は1本のT字杖(左側支持)で自立して歩けるようになりました

買い物など、30分程度の連続歩行も継続して行えるまでに回復したのです。

自宅の階段も、手すりを用いながら片脚ずつ同じ段に揃えて昇る「2足1段」で自立

靴下の着脱も、手術回数の多かった左側を少し外側へ逃がすような工夫をしながら、自分でできるようになっていました。

しかし、リハビリ室ではまだいくつかの課題が残っていました。
特に印象に残っているのは、

「右脚が短く感じる」

という訴えです。

また、歩くと左膝が内側へ入りやすい状態も見られていました。
痛みは改善しているのに、身体は若いころからの長年の癖を残していたのです。

それらの課題に対し、リハビリでは、

  • 骨盤を前後に動かす練習
  • 身体の余分な力を抜く練習
  • 歩き方の確認
  • 自宅で続けられる自主トレーニング提案

などを行いました。

筋力トレーニング(お尻を持ち上げる運動等)で余計な力が入ってしまうときは、
四つん這いで背中を丸める運動や、ストレッチポールを用いたリラクゼーションも取り入れました。

リハビリテーションの部署内で検討しながら、その時々の状態に合わせて内容を見直しながら進めていきました。

半年後の再診で驚いたこと

それからしばらくして再びお会いした吉成さんの姿は、毎週の外来リハビリ終了時の予想を超えるものでした。

その変化を、当時の様子と比較してみます。

項目外来リハビリ終了当時再会時
1本杖(左側支持)杖なし
階段手すり+2足1段手すりなし+1足1段
靴の着脱座って、かつ、努力と工夫が必要立ったままスムーズに可能
外出最低限(買い物)など中心家族とも単独でも、よく出掛ける
体重55kg51kg

体重は4kg減少していました
股関節の違和感や疲労時の痛みが軽くなり、よく出掛けるようになったことも関係していたのかもしれません。

とくに私が注目したのは、体重そのものよりも生活の変化でした。

※股関節症と体重の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。

理学療法士として印象に残ったこと

この症例を通じて深く心に残ったのは、
長年培ってきた「身体の癖」に対して、人間の身体がどう適応していくかというプロセスの力強さです。

劇的に変化した新しい骨格に対して、最初は身体が順応しきっていませんでした。

「右が短く感じる」という不安や、歩行時の下肢の支えのゆがみは、新しい身体に馴染もうとして二次的に生じていた現象と捉えることもできます。

治療の焦点がぶれないよう、私たちは、その時々の状態に合わせて細かくメニューを見直していったものの、
最終手的には、吉成さん自身がご自分の意思で、実直に家事などのルーティンや自主トレーニングを継続されていたことが、この見事な変化につながったのだと感じています。

まとめ

幼少期からの痛み。

5回の手術歴。

そして最重度の変形を経て行われた両側人工股関節全置換術。

吉成芙美さんの歩んできた道のりは、決して容易なものではありませんでした。

しかし、私が忘れられないのは、病院の治療計画に頼っていた日々を終え、半年後に見た吉成さんの表情でした。

外出すること。

階段を使うこと。

化粧をして出掛けること。

自分の足で生活すること。

これらの主体的な積み重ねが、いつの間にか受け身のリハビリ以上の大きな成果をもたらしたのだと思っています。

【追記】専門職向け補足:リハビリで見ていたポイント

・症例データ:47歳女性、147cm/55kg、BMI25.5。主婦。5人暮らし(夫・娘・義父母)。2階建て住宅(寝室2階、上り框35cm)。両側変形性股関節症(CroweⅣ型)。

・疼痛評価:荷重時痛なし。end feelにおいて軟部組織のタイトネスに起因する筋伸張痛あり。

・骨盤へのアプローチ:術前はW-t-cane使用、骨盤前傾位歩行。骨盤前後傾の可動性不良。ヒップリフトでは共収縮が入りリラクゼーション困難だったため、キャットやストレッチポールによる介入を選択。腰方形筋ストレッチを併用。

・左膝knee inの考察:背臥位ではknee inが軽減することから、自覚的脚長差(右下肢短縮感)に対する代償動作の可能性を考慮。足部の影響を除外するため膝立ちでの再評価・アライメントのフィードバックを繰り返す。

・その都度評価を行いながらHome-exを更新していった。

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