肩が痛いときの筋トレは何をすればいい?腱板・肩周囲の運動を理学療法士が解説

「肩が痛くて腕に力が入らないけれど、筋トレをすれば良くなるのだろうか」
「インナーマッスルが弱いと言われたが、チューブ運動をすれば痛みが消えるのだろうか」
「五十肩のあと、腕を上げる力が落ちてしまったがどう鍛えればいいのだろう」

肩の痛みや動かしにくさに対して、筋力トレーニングやチューブ運動を検討する方は少なくありません。

しかし、肩の筋力トレーニングにおいて最も大切なのは、「特定の筋肉だけを鍛えれば痛みが治る」と単純に考えるのではなく、いま必要な負荷を見極め、肩関節・腱板・肩甲帯・体幹を協調させながら、最終的に生活や仕事で必要な動作へつなげることです。

動かせる範囲(可動域)を整えたら、次はその範囲の中で必要な力を発揮し、段階的に日常生活の負荷へ戻していく視点が欠かせません。

この記事では、肩が痛い・力が入らないときにまず整理すべき点や、肩の筋力トレーニングの基本的な考え方、負荷の段階的な進め方、痛みのモニタリング基準、変わらないときの再評価についてわかりやすく解説します。

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肩が痛い・力が入らないとき、まず何を整理する?

いきなり重りやチューブを使ったトレーニングを始める前に、まずはご自身の現在の状態を確認しましょう。

痛みの強さ(安静時痛・夜間痛の有無)

じっとしていてもズキズキ痛むのか、夜間に痛みで目が覚めてしまうのか、あるいは特定の動作をしたときだけ痛むのかを確認します。

強い安静時痛や夜間痛がある時期は、筋力向上を最優先にしない場合があります。

痛みの状態や睡眠への影響、医学的な確認を優先し、その時点の状態に合わせて運動内容を選びます。

動かせる範囲(可動域)は足りているか

目的の動作を行うために必要な関節の動きが保たれているかを確認します。

関節が固まって動かない場合は、筋力トレーニングよりもまず動かせる範囲を広げる対応が優先されることがあります。

可動域へのアプローチやストレッチの考え方については、関連記事「肩のストレッチ」をご覧ください。

生活や仕事で「何ができるようになりたいか」

「ドライヤーを持ち続けたい」「高い棚に食器を置きたい」「仕事で重い荷物を運びたい」「スポーツで思い切り腕を振りたい」など、どのような生活場面で力を発揮したいのかを明確にします。

術後やケガの直後ではないか

肩の手術(腱板修復術や脱臼手術など)を受けた後や、転倒などの外傷直後は、自己判断で負荷運動を行ってはいけません。組織の治癒段階に応じた慎重な管理が必要です。

肩の筋力トレーニングに対する基本的な考え方

理学療法において、肩の筋力を鍛える目的は単に筋肉を大きくすることではありません。

肩の筋力は何のために必要?(生活・仕事・スポーツを支える力)

肩の筋力は、日常生活のさまざまな動作を支えています。

  • ドライヤーを頭の上で持ち続ける
  • 高い棚へ荷物を持ち上げて置く
  • 買い物袋や重い荷物を身体の横で運ぶ
  • 洗濯物を物干し竿にかける
  • 仕事で工具を支えたり、一定の姿勢を保ったりする
  • スポーツでボールを投げる、ラケットを振る

筋力測定の数値を上げること自体がゴールではなく、こうした生活や仕事の動作を無理なく安定して行えるようにすることが本来の目的です。

「インナーマッスルを鍛えれば治る」という単純な話ではない

肩の深層には、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋という4つの筋肉からなる「腱板(インナーマッスル)」があり、肩関節の安定や運動に関わっています。

しかし、「インナーマッスルが弱いから肩が痛む」「腱板を鍛えれば肩痛が治る」という単純な因果関係で説明することはできません。

筋力低下は「原因」なのか「結果」なのか

肩の筋力が落ちている場合でも、筋力不足が痛みの引き金になったのか、痛みがあるために反射的に力が出なくなっているのか、痛みをかばって使わなかったために一時的に筋力が落ちている(廃用)のかを、一つの検査だけで断定することは困難です。

肩関節・腱板・肩甲帯・体幹が連動して力を発揮する

腕に力を入れて動かすとき、腱板だけが単独で働いているわけではありません。外側の大きな筋肉(三角筋など)や、土台となる肩甲骨周囲の筋肉、背骨や体幹、さらには下肢までが互いに連動して一つの動作を成立させています。

肩甲骨の役割や連動性については「肩甲骨と肩痛」で詳しく解説しています。

肩の筋トレは「負荷のステップ」で進める

肩の筋力トレーニングは、いきなり強い負荷をかけるのではなく、状態に合わせて段階的に進める考え方が用いられます。

※以下は進め方の一例であり、全員共通の固定された順番ではありません。

ステップ1|関節を動かさずに力を入れる(等尺性運動)

関節を大きく動かさずに筋肉を収縮させる方法です。

肘を曲げて身体の横に置き、壁や反対の手に対して軽く外側や内側へ押し当てるように力を入れます。強い力で力む必要はなく、関節を動かさずに筋肉を使う感覚を確かめる選択肢の一つになります。

ステップ2|動かせる範囲で軽い抵抗をかける(外旋・内旋・挙上)

動かせる範囲の中で、軽い抵抗に対して腕を動かしていく方法です。

  • 外旋方向:肘を身体の横に置き、軽いチューブや反対の手の抵抗に抗して、前腕をゆっくり外側へ開きます。特定の筋肉だけでなく、肩の後方周囲が協調して働きます。
  • 内旋方向:肘を身体の横に置き、軽い抵抗に対して前腕をお腹側へ引き寄せます。
  • 挙上方向:重りを持たずに腕を前上方へ持ち上げる動きから始め、徐々に軽い負荷へ移行します。

痛みが強く出る角度を無理に反復することは避け、コントロールできる範囲で行います。

ステップ3|肩甲帯や体幹と一緒に動かす

肩単独の動きから、土台となる肩甲骨や体幹と連動させる動きへと広げていきます。

壁に手をついて軽く体重を支える運動や、前方に手を伸ばすリーチ動作など、腕に力を入れたときに肩甲骨や体幹がどのように参加しているかを確認しながら動かします。

ステップ4|生活・仕事・スポーツの実負荷へ近づける

低負荷での運動が安定してきたら、最終的に本人が困っている生活動作の負荷へと近づけていきます。

軽い物を持ち上げて保持する、高い場所へ物を運ぶ、仕事の動作を模した動きを行うなど、実際の生活や競技に必要な負荷へと段階的に戻していきます。

トレーニング中の痛みや負荷量はどう考える?

運動を行う際、どのくらいの強さや回数で行うかは大切な判断基準です。

「痛みに耐えて鍛える」は間違い

強い痛みを我慢して負荷を続けることが、より高い効果につながるとは限りません。運動中や運動後に症状が明らかに増える場合は、負荷や方法を見直します。

中止・見直しを考える痛みのサイン

以下のような反応がみられた場合は、負荷が強すぎるか、運動の時期が合っていない可能性があります。

  • 動かした瞬間にズキッと鋭い痛みが走る
  • 運動後、何時間も重だるいジンジンとした痛みが残る
  • その日の夜に夜間痛が強まり、睡眠が妨げられる
  • 翌朝、肩の動かしにくさや生活動作が前日より明らかに悪化している

運動中だけでなく、夜間や翌朝の反応まで含めて確認することが大切です。

全員に共通する「正解の回数・重さ」はない

「全員が10回×3セットを行うべき」といった万人共通の処方はありません。

まずは翌日に強い痛みや疲労感を残さない、ごく軽い負荷から開始し、体調や翌朝の反応を見ながら、回数や負荷量を個別に調整していくことが基本となります。

肩をすくめる動きは「失敗」なのか?

腕を持ち上げたり力を入れたりするときに、肩をすくめるように肩甲骨を高く引き上げる様子がみられることがあります。

こうした代償動作は、見た目だけで一律に「悪いフォーム」「失敗」と減点するものではありません。

痛む肩関節をかばいながら、手を目的の高さまで運ぶために身体が選んでいる適応戦略である場合もあります。

理学療法では、代償を無理に抑え込むことだけを目的とせず、「なぜその動きを使っているのか」「どの機能が補われれば自然に動かせるか」という背景を評価します。

腕が上がらない状態の切り分けについては「肩が上がらない」に関連する記事をご覧ください。

実際の症例から学ぶ|筋トレは「再評価」とセットで進める

臨床の現場でも、最初から筋トレだけを機械的に処方することはありません。

例えば、右肩が上がらず服の着脱に困っていた50代女性の実例。

初期から、可動域を広げるためのストレッチ、腕を持ち上げる挙上運動などを行っていました。

その後、なかなか症状が改善されず、動く範囲や動作を再評価した上で、腕を持ち上げる初動の機能に着目し、インナーマッスルのひとつである棘上筋への細かいアプローチが追加・検討されました。

最初から決めた筋トレをただ続けるのではなく、可動域や生活動作の反応を確かめ、再評価に応じて必要な筋機能運動を追加していくプロセスがとられていた実例です。

筋トレを続けても変わらないときはどうする?

筋力トレーニングを続けているのに動きや痛みが変わらない場合、さらに重い負荷をかけたり回数を増やしたりすることが正解とは限りません。

評価(痛みの状態・可動域・生活目標の確認)

仮説(どの機能や負荷が必要かの推測)

負荷運動(無理のない範囲での運動)

反応の確認(直後・夜間・翌朝の生活動作)

変化があれば段階的に負荷を調整 / 変化が乏しい・悪化なら「再評価」へ

変化が出ない場合、そもそも痛みが強くて筋力を発揮できていない可能性や、関節の動く範囲が足りていない可能性、生活目標と運動内容が合っていない可能性などが考えられます。

負荷を増やす前に、理学療法士などの専門職に相談し、評価の前提を見直すことが重要です。

理学療法士が行う肩の詳しい評価の流れは、「肩の理学療法評価」を扱った記事で簡単に解説しています。

腱板断裂や五十肩がある場合の筋トレの捉え方

疾患や状態によって、筋力トレーニングの位置づけは異なります。

腱板断裂がある場合

画像上で腱板の断裂がある場合でも、残っている周囲の筋肉や腱板機能を活かすために保存療法として運動療法が選択されることはあります。

ただし、運動療法の目的は、断裂した腱そのものを元の状態へ戻すことではなく、痛みや機能、残っている肩の働きを改善することです。断裂の状態や筋力低下の度合い、症状、生活上の必要性などによって治療方針は異なるため、医師の診断と方針を確認することが前提となります。

腱板断裂の詳しい特徴については「腱板断裂」をご覧ください。

五十肩の場合

五十肩(肩関節周囲炎)の経過において、痛みが強く関節が固まっている時期に無理な筋力トレーニングを行うことは推奨されません。痛みが落ち着き、日常生活の中で腕を使う力を取り戻していく段階で、状態に合わせて筋機能への運動が検討されます。

五十肩の病態や経過については「五十肩・肩関節周囲炎」を参考にしてください。

こんな場合は筋トレを中止して医療機関へ

自己判断で運動を続けず、医師による医学的な評価を優先すべき状態があります。

術後・外傷後は自己判断で負荷をかけない

腱板修復術や脱臼の手術後、骨折後などは、修復組織を保護するための制限期間があります。

一般向けの記事をもとに自己判断で負荷運動を追加せず、主治医や担当理学療法士から示された運動範囲や負荷の指示を最優先してください。

脱臼後の不安定感や注意点については「反復性肩関節脱臼」で詳しく解説しています。

速やかな医学的評価が必要なサイン

  • 転倒や衝突などのケガの直後から急に力が入らなくなった
  • 腕がだらんと垂れてしまい、自力で持ち上げることができない
  • 肩の関節部分が明らかに不自然に変形している
  • 腕や手先にかけて強いしびれや麻痺が急速に進行している
  • 肩関節が赤く腫れ上がり、強い熱感や発熱を伴っている
  • 筋トレを続けるほど痛みが悪化し、日常生活に支障が出ている

まとめ|筋トレは「筋力測定値を上げて終わり」ではない

肩の筋力トレーニングや負荷運動と向き合う上で、大切なポイントは以下の通りです。

  1. 肩の筋トレは特定の筋肉だけを鍛えることではなく、生活や仕事に必要な動作へつなげることが目的である
  2. 「インナーマッスル(腱板など)が弱いから痛む」と単純化せず、全体の連動性の中で力を捉える
  3. 強い安静時痛や夜間痛がある時期は無理に鍛えず、可動域が不足している場合はまず動かせる範囲を整える
  4. 等尺性運動、軽い抵抗運動、体幹との連動、生活負荷へと段階的に負荷を戻していく
  5. 運動中だけでなく、直後・夜間・翌朝の生活動作の反応を確認しながら負荷を調整する
  6. 変化が乏しい場合は負荷を増やすのではなく、評価やアプローチの前提を見直す

肩の運動のゴールは、重いウエイトを持ち上げることや、筋力の測定値を高くすること自体ではありません。

その力を通じて、洗髪や更衣、仕事や趣味、スポーツなど、あなたが日常で行いたい動作を安心して行えるようにすることが最終的なゴールです。