人工膝関節の手術後、診察やリハビリで、
「膝は前より曲がっています」
「まっすぐ伸びるようになっています」
と言われても、歩きにくさが残ることがあります。
- 手術した脚に力が入らない
- 脚へ体重を乗せにくい
- 歩き始めると痛い
- 歩幅が小さい
- 長く歩けない
- 反対側の膝まで痛くなる
膝関節の可動域が改善していても、歩行時の体重のかけ方や身体の使い方が変わっていないことがあります。
この記事では、右膝の人工膝関節全置換術後、可動域が0〜122度まで改善した後も「右脚に力が入らない」と感じていた60代男性の実例をもとに、術後の歩きにくさを説明します。
膝を曲げる方向に困っている方は、以下の記事をご覧ください。
▶︎ [膝の手術後に曲がらない原因と対処法を詳しく読む]
※この記事は一般的な情報と一人の症例をもとに構成しています。個別の診断や運動方法は、主治医や担当療法士に確認してください。
右膝の手術後も「うまく歩けるようになりたい」と話していた80代男性
戸田義男さん(仮名・60代男性)は、右膝の人工膝関節全置換術を受けました。
戸田さんの希望は、次の二つでした。
「うまく歩けるようになりたい」
「左膝は、できれば手術したくない」
手術翌日から歩行練習が始まりました。
戸田さんが手術を受けた病院は早期退院の方針で、術後1週間で退院し、その後は外来リハビリを続けました。
術後3週ごろには、右膝の腫れや痛みが残っていました。
右脚へ十分に体重をかけることが難しく、膝と股関節を少し曲げた姿勢で歩いていました。

術後半年には可動域が0〜122度まで改善した
右膝の可動域は、経過とともに改善しました。
術後半年には、伸展0度、屈曲122度まで回復していました。
角度の経過は良好でした。
しかし、戸田さんが感じていた歩きにくさは続いていました。
リハビリ開始から約3か月後には、次のように話しています。
「手術した右膝で歩き始めると痛い」
約5か月後には、反対側の左膝に痛みが出ました。
約7か月後には、左膝の痛みは落ち着いていましたが、新たな困りごとを話しました。
「左膝の痛みは落ち着いているけれど、手術した右脚に力が入らない感じで、うまく歩けない」
右脚へ十分に体重を乗せられていなかった
歩行を確認すると、戸田さんは手術した右脚へ十分に体重を乗せられていませんでした。
右脚で支える時間が短く、反対側の左脚に頼って歩いていました。
その状態が続き、左膝にも負担がかかっていたと考えられます。
さらに、次の特徴がみられました。
- 骨盤が左へねじれていた
- 右股関節を後ろへ伸ばしにくかった
- 左脚で体重を支える時間が長かった
- 右脚で身体を支えた後、次の一歩へ移りにくかった
戸田さんの右膝は、可動域の数字上は改善していました。
一方、歩行の中では、右脚を十分に使えていませんでした。
「力が入らない感じ」に含まれるもの
手術後に「力が入らない」と感じると、筋力低下を思い浮かべる方が多いと思います。
人工膝関節の手術後は、実際に大腿四頭筋などの筋力が低下します。
ただし、本人が感じる「力が入らない」には、筋力以外の状態も含まれます。
- 痛みが出そうで体重を乗せられない
- 手術した脚で支える感覚がつかめない
- 反対側の脚へ早く体重を移してしまう
- 骨盤や股関節を使って身体を前へ運べない
- 足裏のどこに体重が乗っているかわかりにくい
- 転倒への不安がある
十分な筋力があっても、歩行中にその力を使えなければ、本人は「力が入らない」と感じることがあります。
痛みや手術によって、身体の感覚にも変化が生じる
歩くとき、私たちは足裏の圧力や関節の位置を感じながら、無意識に身体を調整しています。
「どちらの脚に体重が乗っているか」
「膝がどの位置にあるか」
「身体が傾いていないか」
こうした情報を使って、一歩ずつ身体を運んでいます。
長い間膝をかばっていた方は、手術前から反対側の脚へ体重を逃がしていることがあります。
手術後に関節の状態が変わっても、身体は以前の歩き方を続ける場合があります。
戸田さんも、右脚へ体重を乗せきれず、左脚へ早く体重を移していました。
右脚へ体重を乗せる練習
戸田さんのリハビリでは、まず右脚へ体重を乗せる練習を行いました。
すでに一人で歩ける状態でしたが、歩行を繰り返す前に、座位や立位で体重の位置を確認しました。
- 右足を床につける
- 右脚へ少しずつ体重を移す
- 膝がどの位置にあるか確認する
- 身体が左へ逃げていないか確認する
- 右脚で支えた状態を保つ
右脚で支える時間をつくり、「この脚に体重を乗せられる」という感覚を確認しました。
骨盤を使って身体を前へ運ぶ練習
戸田さんは、骨盤の動きが小さくなっていました。
歩行では、骨盤がわずかに前後・左右へ動き、身体を次の一歩へ運びます。
骨盤の動きが小さいと、身体を前へ移動しにくくなり、歩幅も小さくなります。
そこで、座った姿勢から身体を前へ移動させる練習や、骨盤を動かしながら体重を移す練習を行いました。
身体を前へ倒すだけではなく、骨盤の動きと足への荷重を合わせました。
歩行を部分ごとに練習した
歩行は、次の動きが連続して起こります。
- 片脚へ体重を乗せる
- その脚で身体を支える
- 反対側の脚を前へ出す
- 次の脚へ体重を移す
戸田さんは、右脚へ体重を乗せて支える部分が短くなっていました。
そのため、最初から長い距離を歩く練習を繰り返すのではなく、動作を分けて行いました。
まず右脚で支える練習を行い、次に反対側の左脚を一歩前へ出しました。
その後、連続した歩行へつなげました。
筋力トレーニングを歩行につなげる
大腿四頭筋などの筋力トレーニングは、人工膝関節術後のリハビリで行われます。
筋力が回復しても、歩行中に手術した脚へ体重を乗せる時間が短ければ、その力を十分に発揮できません。
戸田さんの場合は、筋力トレーニングとともに、次の練習を行いました。
- 右脚への荷重
- 右脚で身体を支える
- 骨盤を使って身体を前へ運ぶ
- 左脚を一歩前へ出す
- 左右の脚へ連続して体重を移す
筋肉を強くする練習と、歩行の中で使う練習をつなげました。
反対側の膝が痛くなる理由
戸田さんは、術後約5か月で左膝の痛みを訴えました。
右脚で支える時間が短く、左脚へ頼る歩行が続いていました。
そのため、左膝が体重を支える時間や回数が増えていたと考えられます。
人工膝関節の手術後、反対側の膝が痛くなった場合は、痛みがある側だけでなく、左右の脚の使い方を確認します。
- 手術した脚へ体重を乗せられているか
- 反対側の脚へ早く逃げていないか
- 歩幅に左右差がないか
- 身体が左右へ傾いていないか
- 杖の位置や使い方が合っているか
反対側の膝に痛みが出た場合も、主治医や担当療法士へ相談してください。
膝が曲がるようになっても、歩きにくさが残るときに確認したいこと
歩いているとき、左右それぞれの脚で身体を支える時間があります。
手術した脚で支える時間が極端に短いと、歩行の左右差が大きくなります。
身体が前へ進むとき、後ろ側の脚では股関節が伸びます。
股関節を後ろへ動かしにくいと、歩幅が小さくなる場合があります。
骨盤の回旋や移動が小さいと、脚だけで歩こうとする形になりやすくなります。
足首で身体を前へ送り出す動きも歩行に関係します。
膝だけを確認していると、足首の動きが見落とされることがあります。
現在の痛みが軽くなっていても、以前の痛みの経験から体重を乗せることを避けている場合があります。
補助具の高さや使う側が合っていないと、手術した脚への負担や歩き方に影響します。
自己判断で外さず、担当者に確認してください。
受診や相談を考えたい状態
次の状態がある場合は、主治医や担当療法士へ相談してください。
- 痛みが急に強くなった
- 腫れや熱感が増えた
- 脚へ体重をかけられなくなった
- 転倒後から歩きにくくなった
- 膝が抜けるように感じる
- 反対側の膝や股関節の痛みが強くなった
- 歩ける距離が短くなっている
- 杖や歩行器の使い方がわからない
- 可動域は改善したと言われたが、生活上の歩きにくさが続いている
まとめ
戸田さんは、右膝の人工膝関節全置換術後、可動域が0〜122度まで改善していました。
それでも、手術した右脚に力が入らないと感じ、うまく歩けない状態が続いていました。
歩行を確認すると、右脚で支える時間が短く、左脚へ頼っていました。
骨盤の左回旋、右股関節の伸びにくさ、左右の荷重時間の違いもみられました。
リハビリでは、右脚への荷重、骨盤を使った体重移動、歩行の部分練習を行いました。
人工膝関節の手術後に歩きにくさが残るときは、筋力、体重のかけ方、股関節、足首、骨盤、身体の感覚などを確認します。
膝を曲げる方向の制限や、膝がまっすぐ伸びない状態については、以下の記事をご覧ください。
▶︎ [膝の手術後に曲がらない原因と対処法を詳しく読む]
▶︎ [膝の手術後に膝が伸びない原因を詳しく読む]
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