「結局ずっとこのままなのかと思って絶望しました…」
「手術したのに膝は曲がらないし、歩くのが怖くなった」
後藤さんは、18年にわたって右膝の痛みに悩んでいました。
正座はできず、500メートルほど歩くことも難しくなっていました。階段を下りるときは、一段ずつ足をそろえなければなりませんでした。
安静にしていても痛みが続くようになり、長く受けてきたブロック注射を断念します。
そこで選んだのが、人工膝関節全置換術でした。
ところが、手術後のリハビリ初日、右膝は思うように曲がりませんでした。
膝の裏には強い痛みがあり、曲げようとすると周囲の筋肉が緊張しました。
手術が終われば膝が動くようになると期待していた後藤さんは、強い不安を抱えるようになります。
この記事では、後藤さんが術後の痛みや怖さと向き合い、スーパーまで歩けるようになるまでの経過を紹介します。
膝が曲がりにくくなる一般的な原因や受診の目安を先に確認したい方は、以下の記事をご覧ください👇
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※この記事は一人の患者さんの経過を紹介するものです。同じ手術を受けた方に、同じ経過や結果を保証するものではありません。
18年間続いた右膝の痛み
後藤さんは、18年にわたって右膝の痛みを抱えていました。
膝の痛みによって、生活の範囲は少しずつ狭くなっていきました。
正座はできません。
500メートルほどの距離を歩くことも難しく、階段を下りるときは一段ずつ足をそろえていました。
やがて、動いていないときにも痛みが続くようになります。
ブロック注射(痛む場所や神経の近くに麻酔薬などを注射して、痛みを和らげる治療法)を受けながら生活していましたが、いつまで続ければよいのか見通しを持てなくなっていました。
後藤さんは、右膝に人工関節を入れる手術を受けることを決めました。
手術前には、膝の状態が術後の回復にも影響すると説明されていました。
それでも後藤さんには、「手術が終われば、今より膝を動かせるようになる」という期待がありました。
手術後のリハビリ初日|膝裏の痛みと「曲げる怖さ」
手術後のリハビリ初日。
後藤さんの右膝は、思うように曲がりませんでした。
膝の裏には強い痛みがあり、膝を曲げようとすると筋肉が緊張しました。
痛みを予測すると、身体が膝を守るように固まってしまいます。
「曲げようとするだけで怖いんです。痛いかもって思うと、勝手に身体が拒否しちゃって……」
後藤さんは、手術前に聞いていた説明を思い出していました。
「術前の膝の状態が、術後にも影響する」
うまくいかない可能性も考えていたそうです。
それでも、実際に膝が動かない状態を目の前にすると、受け止めるのは簡単ではありませんでした。
「手術さえすれば」という期待が崩れ、後藤さんは「このままずっと変わらないのではないか」と感じていました。
術後3週まで|腫れ・熱・痛みを抑えながら動かした
術後初日から3週ほどまでは、右膝に炎症症状がみられていました。
腫れ、熱、痛みが残る中で強く曲げようとすると、膝周囲の緊張がさらに高まる可能性があります。
この時期に行った内容は次のとおりです。
- 冷却(アイシング)
- セッティング
- アンクルエクササイズ
- スライディングボードを使った軽い膝の曲げ伸ばし
- NUSTEPを使ったペダル運動
セッティングは、膝を伸ばした状態で太ももの前に力を入れる運動です。
アンクルエクササイズでは、足首を動かして柔軟性や循環の回復を促しました。
スライディングボードでは、足を小さな台に乗せ、摩擦を減らした状態で膝を曲げ伸ばししました。
この時期は、角度を急いで広げるよりも、後藤さんが「動かしても大丈夫かもしれない」と感じられる範囲から進めました。
痛みがあるうちは、身体に力が入っていた
後藤さんは、膝を動かそうとすると力が入りました。
本人が力を入れようとしているわけではありません。
これまでの痛みの経験や、術後の膝裏痛から、身体が無意識に膝を守っていました。
療法士が膝を動かそうとしても、太ももや膝の裏の筋肉が緊張します。
後藤さん自身も、力を抜こうとしていました。
しかし、「また痛むのではないか」という予測が先に起こり、身体の緊張が続いていました。
そこで、無理に大きく動かすことは避けました。
負担の少ない運動を繰り返し、痛みや腫れの変化を確認しながら進めました。
術後3〜6週|筋力と自分で動かす練習を増やした
術後3週を過ぎるころから、痛みは少しずつ落ち着いていきました。
この時期から、筋力トレーニングと動作練習を増やしました。
関節可動域練習は、療法士が仰向けの後藤さんの膝を動かす方法に加え、座った状態で本人が動かす方法も取り入れました。
行った内容は次のとおりです。
- 座位で自分の力を使った膝の曲げ伸ばし
- 大腿四頭筋のトレーニング
- 殿筋や股関節周囲筋のトレーニング
- ふくらはぎの筋力トレーニング
- 足首と股関節の協調性練習
- 段差昇降
- スクワット
膝を単独で動かす練習に加え、立った状態で体重を支える運動も始めました。
段差昇降やスクワットでは、膝、股関節、足首を一緒に使います。
後藤さんは、少しずつ右脚に体重をかけられるようになりました。
「曲がらないから怖い」と話していた状態から、「動かす感覚が戻ってきた」と感じる場面が増えていきました。
術後3か月|孫と乗ったブランコで感じた変化
術後3か月ごろ、後藤さんは孫と一緒に公園へ出かけました。
そこで久しぶりにブランコに乗りました。
後日、リハビリの際にこう話しました。
「ブランコをこぐと、なんか膝が自然に曲がる感じがするんですよ」
担当した理学療法士にとっても、あまり聞いたことのない表現でした。
ブランコをこぐときは、一定のリズムで股関節と膝を動かします。
後藤さんは、膝を曲げることだけに意識を集中させず、遊びの中で自然に下肢を動かしていました。
訓練室で動きを確認すると、うつ伏せで行うバタ足運動でも、以前よりリズムよく膝を曲げられるようになっていました。
術後3〜4か月|生活の中で右膝を使えるようになった
術後3〜4か月には、次の内容を組み合わせて行いました。
- チェアスクワット
- ストレッチベンチを使った太もも裏からふくらはぎのストレッチ
- 超音波治療
- 自宅でのアイシング
- 自宅での軽い運動
チェアスクワットでは、椅子から立ち上がり、再び座る動作を繰り返しました。
ストレッチでは、太ももの裏からふくらはぎにかけての柔軟性を確認しました。
自宅でも、膝の状態に合わせて冷却と軽い運動を続けました。
後藤さんの変化は、訓練室内の動きにとどまりませんでした。
「スーパーまで歩いていけるようになりました。怖さが減った分、気持ちも軽くなった気がします」
手術前には500メートルほど歩くことも難しかった後藤さんが、自分でスーパーまで歩けるようになりました。
身体の変化とともに、不安も変わっていった
術後初日の後藤さんは、膝を曲げることそのものに強い怖さを感じていました。
「ずっとこのままなのではないか」
「また痛むのではないか」
その不安によって、右膝周囲の筋肉は緊張しやすくなっていました。
術後3週までは、痛みと炎症の変化を見ながら、負担の少ない運動を続けました。
痛みが落ち着いた後は、自分で膝を動かす練習や、右脚で体重を支える動作を増やしました。
公園でブランコに乗った経験も、後藤さんにとって一つの転機になりました。
訓練として膝を曲げたのではありません。
孫と過ごす時間の中で、右膝が自然に動くことを本人が感じました。
その経験から、日常生活で右膝を使う場面が増えていきました。
理学療法士として考えたこと
後藤さんを担当する中で、私は膝の角度と同時に、動かすときの表情や筋肉の緊張、本人の言葉を確認していました。
膝を曲げようとすると力が入り、本人も「怖い」と話していました。
そこで、強い痛みを我慢して角度を広げる方法は選びませんでした。
術後初期は炎症症状を抑えながら、足首運動や軽い膝の曲げ伸ばしを行いました。
痛みが落ち着いた後は、筋力トレーニング、股関節や足首との協調運動、段差昇降、スクワットへ進みました。
後藤さんが「動かしても大丈夫」と感じられる経験を積み、その後に運動の内容を広げました。
術後の筋力トレーニングは、筋肉を強くするために行ったものです。
同時に、右脚で体重を支え、再び歩けることを本人が確認する時間にもなりました。
後藤さんの経過
- 術前:18年間右膝痛が続き、500メートルほどの歩行が困難
- 手術後初日:右膝が思うように曲がらず、膝裏痛と防御性収縮がみられた
- 術後3週まで:冷却、セッティング、足首運動、軽い曲げ伸ばしを実施
- 術後3〜6週:筋力トレーニング、関節可動域練習、段差昇降、スクワットを開始
- 術後3か月:ブランコをこいだときに、膝が自然に曲がる感覚を自覚
- 術後3〜4か月:スーパーまで歩けるようになり、歩く怖さも軽減
まとめ
後藤さんは、右膝の人工膝関節全置換術後、膝裏の痛みと強い怖さによって、思うように膝を曲げられませんでした。
術後3週までは炎症症状を確認しながら、負担の少ない運動を続けました。
痛みが落ち着いてからは、筋力トレーニング、関節可動域練習、段差昇降やスクワットへ進みました。
術後3か月には、孫とブランコに乗ったときに、膝が自然に曲がる感覚を得ています。
その後、スーパーまで歩いて行けるようになり、歩くことへの怖さも軽くなりました。
後藤さんに起きた変化を、膝が曲がりにくくなる一般的な理由とともに確認したい方は、以下の記事をご覧ください。
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