「この先も、自宅で暮らし続けられるのだろうか」
若年性アルツハイマー病と診断された折田明菜さん(仮名・50代女性)は、病気の予後だけでなく、これからどこで、どのように暮らしていくかという問題にも向き合うことになりました。
歩くことや食事は自分で行えていましたが、一人暮らしを続ける中で、少しずつ生活に変化が現れ始めます。
離婚していた折田さんの介護を支えていたのは、若い長女(20代)。お母さんが心配ではありつつも、ちょうどがむしゃらに働きたい年齢でもあったため、家族は今後の生活について改めて考えることになりました。
その時に選んだのが、介護付き有料老人ホームの一時利用です。
目先の本人が安心して生活できる環境を整えながら、家族や支援者が今後の生活を考える時間をつくるための選択でした。
一人暮らしの中で少しずつ増えていった生活の変化
折田さんは一人暮らしを続けながら、当初はデイサービスを利用していました。
趣味は絵を描くことやピアノの演奏です。
歩行や着替え、食事などは自分で行えていましたが、認知機能の低下に伴い、生活の中で気になる場面が目立つようになります。
同じ薬を何度も服用してしまうことがありました。
トイレの後始末を忘れることもあり、脱いだ服を洗濯に出すところが、タンスへしまってしまうこともありました。
デイサービスのない日は、自宅でテレビを見て過ごす時間が多く、外出する機会も限られていました。
一つひとつを見ると大きな問題ではないように感じられるかもしれません。
しかし、一人暮らしでは、こうした変化が少しずつ積み重なっていきます。
長女は当初、「できるだけ自宅で暮らしてほしい」と考えていました。
その一方で、仕事を続けながら親の生活を支えていくことへの不安も大きくなっていました。
50代でも介護保険サービスを利用できる場合があります
折田さんは50代でしたが、介護保険サービスを利用しながら生活していました。
介護保険は65歳以上が対象というイメージを持たれることがありますが、40歳以上65歳未満でも、国が定める特定疾病によって要介護認定を受けた場合は利用できます。
若年性アルツハイマー病も、その対象となる病気の一つです。
利用できるサービスには、たとえば以下のような種類があります。
- 訪問介護
- デイサービス
- 小規模多機能型居宅介護
- ショートステイ
- 介護老人保健施設(老健)
- グループホーム
- 介護付き有料老人ホーム
どのサービスを選ぶかは、病名だけでは決まりません。
本人の生活状況、家族の介護体制、これからどのような暮らしを目指すかを踏まえながら検討していきます。
なぜ介護付き有料老人ホームを一時的に利用したのか
折田さんは、介護付き有料老人ホームが、最初から第一希望だったわけではありません。
小規模多機能型居宅介護やグループホームなども含め、今後の生活について検討が行われました。
その中で、一時的に介護付き有料老人ホームを利用することになった理由は、
- 日中も見守りを受けられること
- 服薬管理を継続できること
- 長女の自宅の近くにあり、仕事帰りにでも通いやすいこと
- 家族が今後の生活について考える時間を確保できること
でした。
この時点では、最終的に自宅で暮らし続けるのか、それとも別の生活の場を選ぶのかは決まっていませんでした。
まずは安全に生活できる環境を整え、その間に本人、ご家族、専門職の間で今後の方向性を話し合うことになりました。
数か月後に自宅へ戻ることも選択肢の一つとして考えながらの利用でした。
短期間の利用を考えている場合は契約内容も確認する
介護付き有料老人ホームには、入居一時金が必要な施設と、月額利用料を中心とした契約の施設があります。
今後の生活が決まっていない段階では、短期間で退去する可能性もあります。
入居一時金の有無だけでなく、月額利用料、途中退去した場合の返還条件、契約内容なども確認しておくと安心です。
施設で行われたリハビリ
施設では、決まった時間に起きて着替えをすること、食堂まで迷わずに歩いて移動すること、他の利用者と会話をしながら食事をすること、などのスケジュールがコンスタントに課せられます。
時に、多目的広場のピアノを弾いたり、書道をしたり、外食ツアーに参加したりと、民間の運営ならではの楽しみも用意されていました。
折田さんにとっては、格段に刺激の多い毎日を過ごすことができていたのです。
もちろん、リハビリ専門職による個別リハビリでは、下肢筋力やバランス能力の維持を目的とした運動も続けました。
自宅では活動量が少なくなっていましたが、施設では自然と身体を動かす時間が増え、生活のリズムも整っていきました。
理学療法士として感じたこと
折田さんは、身体機能は年相応であり、身の回りのことは楽々とこなすだけの能力は保たれていました。
今回課題になっていたのは、認知機能の低下と、病状の進行です。
スケジュール通りにものごとをこなせるか、薬を飲み続けられるか、一人で一日を過ごせるか。
そして、それを家族が仕事を続けながら支えていけるか。
それまでの生活スタイルのままでは、大事故やトラブル、身の危険が生じかねません。
介護付き有料老人ホームを利用したことで、本人の生活の様子を見ながら、ご家族も今後の介護について考える時間を持つことができました。
この実例では、「どこで暮らすか」を急いで決めるのではなく、「どのような生活なら続けられるのか」を確認する時間を作ったことに意味があったと感じています。
まとめ
若年性アルツハイマーと診断された折田明菜さん(仮名)は、介護付き有料老人ホームを一時的に利用しながら、今後の生活について考える時間をつくりました。
介護保険にはさまざまなサービスがあり、その人の生活や家族の状況によって選択肢は変わります。
折田さんのように、すぐに答えを出せないときは、一度生活を落ち着かせてから方向性を考えるという方も多くいらっしゃいます。
今回の症例は、介護付き有料老人ホームが「住み替えのための施設」ではなく、「これからの生活を考えるための一時的な生活の場」として役立った実例でした。
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