パーキンソン病をきっかけに、住まいを見直すという選択
パーキンソン病では、薬が効いている時間と効きにくい時間で、身体の状態が大きく変わることがあります。
こうした変動が続けば、服薬や食事、通院、金銭管理など、一人暮らしを成り立たせてきた日常にも影響が及びます。
今回ご紹介するのは、60代前半の小嶋長春さん(仮名)です。
小嶋さんは長年仕事を続けていましたが、パーキンソン病の症状、ご両親との死別、生活管理の難しさなどが重なり、都内の介護付き有料老人ホームへ入居することになりました。
訪問看護などの在宅サービスを利用して自宅で暮らす方法もあるなかで、なぜ住まいを変える選択に至ったのでしょうか。
小嶋さんの仕事歴や一人暮らしの様子、お姉さんによる支援、入居後の生活をたどりながら、その背景を紹介します。
両親と暮らしながら、清掃の仕事を続けていました
小嶋さんは、ご両親と実家で暮らしながら、自治体の委託事業による公園やビルの清掃に携わっていました。
その時々に決まった場所へ通い、身体を動かしながら働く毎日です。
パーキンソン病と診断された後も、しばらくは仕事を継続していました。
しかし、次第に薬が効きにくい時間帯が現れ、欠勤が増えていきます。休職を経た後、60歳になったタイミングで、仕事を退職することにしました。
同じ頃、ご両親が相次いで亡くなり、小嶋さんは一人暮らしになります。
仕事を離れ、家族構成も変わったことで、それまでとは異なる生活を自分で管理する必要が生じました。
一日の中でも、身体の状態が大きく変わっていました
小嶋さんには、薬が効いて動きやすい「オン」と言われる状態と、薬の効果が弱まり動きにくくなる「オフ」と言われる状態がはっきりとみられていました。
オンの時間帯であれば、身の回りのことを自分で行い、長時間の歩行移動や階段昇降もスラスラとできます。
ところが、オフになると状況は一変します。
起き上がるのすら困難で、立ち上がりにも介助が必要となり、歩こうとするとすくみ足が強くなります。
手足のふるえや声の小ささも目立って現れ、着替えやトイレを含む日常生活全般に支援を要する状態でした。
調子は時間帯だけでなく、日によっても異なります。
服薬を調整するため、入退院を繰り返していた時期もありました。
必要な支援の内容や量が、その時の状態によって変わることが、一人暮らしを続けるうえでの大きな課題になっていました。
仕事を離れた後、生活の様子も変わっていきました
退職後、小嶋さんは「とにかく孤独で不安だった」と振り返ります。
外出先で過ごす時間が増え、そこで知り合った女性に何度も金銭的な援助をするようになりました。
やがて、別居して暮らす家族からの電話にも出にくくなっていきます。
以前から受診時の送迎などを担っていたお姉さんは、その様子を不審に思い、自宅を訪ねました。
そこで目にしたのは、荒れた室内と、大きく減っていた預貯金でした。
それまでのお姉さんの支援は、受診のたびに車で送り迎えをする程度でした。しかし、自宅での実際の暮らしを目の当たりにし、大きな衝撃を受けます。
弟の生活は、これまでのように離れて見守ったり、公的サービスが外から出入りするだけでは支えきれない……そう感じたのです。
また、小嶋さんには、物事を思い詰めやすく、自分の希望がかなわないと感情が強く表れやすい一面もありました。
糖尿病がありながら菓子パンやチョコレートを好み、それらが手元になくなると落ち着かなくなることがあります。欲しい物をすぐに買えないと、大声を出したり、物に当たったりすることも珍しくありませんでした。
一方で、知人のことはまめに気にかけ、リハビリにも概ね積極的に取り組んでいました。朝から道路のごみを拾ったり、自主的に廊下で歩行練習をしたりする姿を、近所の方々もたびたび見かけていました。
このように小嶋さんには、気分が落ち込みやすい時期がある一方で前向きに行動できる面もあり、感情の起伏が大きく、気持ちをうまくコントロールすることが難しい様子がみられていました。
訪問看護だけでは支えにくかった生活上の課題
近年、一般的には、訪問介護や訪問看護、通所介護、配食サービスなどを組み合わせながら、一人暮らしを続ける方法もあります。
小嶋さんについても、在宅サービスを利用する可能性は考えられました。
日々の暮らしには、次のような支援が求められていました。
- オン・オフに応じた身の回りの介助
- 毎日の服薬管理
- 糖尿病を踏まえた食事と間食の管理
- 金銭の使い方への支援
- 室内環境の維持
- 受診や服薬調整への対応
- 排尿状態などの継続的な観察
また、小嶋さんには、ときどき尿が出にくくなる症状もあり、医学的な観察を続ける必要がありました。
訪問型のサービスは、あらかじめ決められた時間に支援し緊急時にその都度対応することが基本です。
心身ともに状態が大きく変動しやすく、生活管理にも複数の課題がある場合、訪問のない時間を誰が支えるのかという問題が残ります。
お姉さんにも家庭があります。受診への付き添いは続けられても、毎日の服薬や食事、金銭管理、急に介助が必要となった際の対応まで担うのは現実的ではありません。
本人への支援を増やすほど、お姉さんがサービスの調整や緊急時の対応を引き受ける場面も増える可能性があります。
家族がキーパーソンとして在宅生活全体を支える方法には、当時の時点では限界がありました。
なによりも、小嶋さん本人が「誰もいないとどうしようもなく不安」だったのです。
なぜ介護付き有料老人ホームを選んだのか
通院先の病院の相談室へ、小嶋さんの状況を相談すると、介護付き有料老人ホームという選択肢を紹介されました。
住まいを検討する際には、在宅サービスのほか、サービス付き高齢者向け住宅、ケアハウス、グループホームなどの施設入所パターンも候補になります。
一般的に、サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者向けの住まいに安否確認や生活相談が付いた仕組みです。
必要な介護は外部サービスを契約して利用する形が多く、常時の介護が住まいと一体で提供されるとは限りません。
グループホームは、原則として認知症の診断がある方を対象としています。小嶋さんには認知症の診断はなく、今回の条件には当てはまりませんでした。
ケアハウスなども候補になり得ますが、施設ごとに受け入れられる介護量や医療対応、入居条件が異なります。
最終的に選ばれた介護付き有料老人ホームには、介護職員が24時間配置され、日中には看護職員が勤務していました。食事、健康管理、服薬管理、必要時の身体介助を同じ生活環境の中で受けられることが、小嶋さんの状況に合っていました。
さらに、お姉さんが受診の付き添いや面会に通いやすい場所だった、ということも、施設を選ぶ際に最も重要な条件となりました。
小嶋さんへの支援だけを考えたのではなく、家族であるお姉さんが自分の生活を維持しながら関わりを続けられることも含めて、住まいが選ばれています。
入居後も、思い通りにならないことへの不満は残りました
施設へ入居すると、食事、服薬、入浴など、生活の一部が施設の管理下に置かれました。(※ご本人の状態に合わせて見守り・管理の内容を計画されることが多いです)
小嶋さんは、それまで好きなものを好きなだけ食べる生活を送っていました。入居後は糖尿病の管理のため、菓子類を自由に持つことができなくなります。この制限に対する不満は強く、施設職員へ菓子を買うよう強い口調で求めることもありました。
その一方で、食事と服薬が管理され、施設入居後、糖尿病の血糖コントロールは良好に保たれています。
安全や健康を守るための管理が、本人には自由を制限されるストレスとして感じられることもあります。施設生活では、その両面を踏まえた関わりが求められます。
入居後も訪問リハビリを継続しました
小嶋さんは施設で生活しながら、外部の訪問看護ステーションによる訪問リハビリを利用しました。
パーキンソン病に対する専門的なプログラムを週4〜5回行い、筋肉のこわばりや関節の動きにくさを予防する運動、その日の状態に合わせた移動練習などを現在も続けています。
調子の良い日には、歩行補助具(歩行車)を使用して30分以上続けて外を散歩することができました。
調子が悪い日は、依然として室内での移動も難しくなりますが、方向転換や左右への体重移動を介助しながら、体が動かないときの対応方法も練習しています。
施設職員による日常生活の支援と、外部の専門職に個別リハビリを組み合わせることで、極端な「オン」「オフ」が生じないように服薬や日常生活活動の細かな評価をし、その日その時間の状態に応じた関わりを続けられているのです。
リハビリ担当者として関わってみて感じたこと
小嶋さんの住まいを考えるうえでは、身体機能、服薬、食事、金銭管理、医療的な観察、本人の行動、家族の支援体制を一緒に捉える必要がありました。
オンの時間帯に身の回りの動作を行えても、その状態が一日を通して続くとは限りません。
また、身体を動かせる時間があったとしても、食事や服薬、金銭、室内環境を安定して管理できるとは限りません。
反対に、支援が必要な場面があることを理由に、本人ができることまで一律に奪うべきでもないでしょう。
住まいを検討するときには、介助量に加えて、その方がどのような人柄で、何を大切にし、どの支援なら受け入れられるのかも関係します。
小嶋さんの場合、介護付き有料老人ホームへの入居により、必要な支援を日常的に受けられるようになりました。お姉さんも同居することなく、受診への付き添いや面会を続けています。
住まいは、その時々の身体、生活、家族の状況に合わせて選択していくものです。
まとめ
小嶋さんが60代で介護付き有料老人ホームへ入居した背景には、パーキンソン病の症状だけでなく、仕事の退職、ご両親との死別、一人暮らし、金銭管理、食事と服薬、医療的な観察、お姉さんの支援体制などが重なっていました。
近年、訪問看護や訪問介護などを組み合わせ、在宅生活を続けることが第一に検討されることもあります。
ただ、小嶋さんの場合は、訪問のない時間を含めた生活管理が必要であり、お姉さんが日常的な対応を担うことも困難でした。
そこで、必要な介護や健康管理を生活の中で受けられ、お姉さんも受診の付き添いを続けやすい介護付き有料老人ホームが選ばれています。
在宅生活と施設生活のどちらが一律に適しているとはいえません。
本人の病状や生活歴、自己管理の状況、家族が担える支援、利用できる医療・介護サービスを確認し、その時点の暮らしに合う住まいを検討することが、生活の再構築につながる場合があります。
4 unique steps 