デスクワークを終えて椅子から立とうとした瞬間、ソファから立ち上がろうとして腰がまっすぐ伸びないとき、
あるいは、「動き始めの第一歩だけ腰が痛む」
という経験はありませんか?
「座っているときはなんともないのに、立った瞬間に激痛が走る」
「少し歩き始めると痛みが落ち着いてくる」
といった症状があると、
「筋肉が弱っているせいか」「骨や椎間板に異常があるのではないか」と不安になるかもしれません。
立ち上がるときに腰が痛む原因は一つではなく、複数の組織や病態が関係している可能性があります。
この記事では、立ち上がり動作で体にどのような負担がかかるのか、考えられる原因、受診を優先したい症状、日常での過ごし方について解説します。
※なお、急激な足の筋力低下、お尻や脚の強いしびれ、感覚低下、会陰部(股の間)の違和感、排尿・排便の異常(尿が出にくい、漏れてしまうなど)、発熱を伴う腰痛、高所からの転落や交通事故など大きな外傷後の痛みがある場合は、別の病態が隠れている可能性があります。自己判断を避け、早めに医療機関へ相談してください。
立ち上がると腰が痛くなるのはなぜ?
まずは、特定の病名を考える前に、「立ち上がる」という動作で体や腰にどのような運動が起こっているのかを確認していきましょう。
椅子から立ち上がるときは、上半身を前へ移しながら足へ体重を移し、その後、股関節や膝を伸ばして立位へ移ります。
この一連の動きには、腰だけでなく骨盤、股関節、膝、足部などが関係します。
どの部位がどの程度動くかには個人差があるため、「立ち上がりで腰が痛い」という症状だけから負担の場所を決めることはできません。
腰痛がある人では、座っている間には目立たなかった痛みが、立ち上がって身体を動かしたときに現れることがあります。
ただし、「動き始めに痛い」という特徴だけで筋肉や関節など特定の組織を原因と判断することはできません。どの姿勢から、どの方向へ動いたときに痛むのかを確認することが大切です。
立ち上がり動作では、腰椎だけでなく骨盤、股関節、膝関節、足部なども関係します。
そのため、腰に痛みがあっても、腰だけでなく周囲の関節の動きや立ち上がり方も含めて確認することがあります。
立ち上がると腰が痛いときに考えられる原因
立ち上がる際に腰が痛む場合、どのような病態や組織への負担が考えられるかを整理します。
以下は関与する病態を考えるための手がかりです。「立つと痛い」という症状だけで病名を確定することはできません。
なお、ここで紹介する順番は、原因の多さや可能性の高さを示すものではありません。
腰の周囲にある筋肉や、それを包む膜(筋膜)へ負担がかかることで生じる腰痛です。筋筋膜性腰痛では、筋肉や筋膜に負担が加わる動きで痛みが現れることがあります。筋肉の張りや押したときの痛み(圧痛)、運動時の痛みなどがみられる場合があります。
※筋肉や筋膜由来の腰痛については、以下の記事で詳しく解説しています。
背骨と背骨の間にあるクッション(椎間板)に負担がかかることで生じる腰痛です。
椎間板性腰痛では、座位や前かがみなどで症状が現れることがあります。
長く座ったあとに立ち上がる際にも腰痛が出る場合がありますが、「立ち上がると痛い」という特徴だけで椎間板が原因とは判断できません。
※座っているときの痛みや前かがみでの負担については、以下の記事をご覧ください。
背骨の後方にある「椎間関節」や関節包に負担がかかることで生じる腰痛です。
立ち上がったあと、腰をまっすぐ伸ばしきるときや、少し斜め後ろへ反らすような動きで痛みが現れることがあります。
※腰を伸ばしたときの痛みや関節への負担については、以下の記事をご覧ください。
不意の動作などをきっかけに急激に腰を痛めたあと、座る・立つ・寝返るなどの動作開始時に強い痛みが走る病態です。
医療機関では、明確な器質的病態(椎間板ヘルニアや骨折など、組織の明らかな変化を伴う病態)が特定できない急性腰痛全般に対して、広義の「腰椎捻挫」や「急性腰痛症」と診断されることがあります。
※腰椎捻挫の分類や経過については、以下の記事をご覧ください。
立ち上がり時の腰痛に加えて、お尻から太もも、すね、足先にかけての痛みや強いしびれ、感覚低下、筋力低下などを伴う場合は、腰椎椎間板ヘルニアなど、神経が圧迫・刺激されている病態も確認する必要があります。
前かがみでの姿勢変更や立ち上がり動作で脚の症状が強まる場合があります。
立ち上がりでは股関節も大きく動くため、腰だけでなく股関節の状態を確認することもあります。
痛む場所だけでは原因を判断できない場合があります。
高齢の方にみられる腰部脊柱管狭窄症、骨折、感染症、腫瘍、内臓疾患など、多種多様な要因が考えられます。
受診時の診察や検査を通じて総合的に確認することが大切です。
受診を優先したい症状
以下のような症状や状態が見られる場合は、セルフケアで無理に様子を見ようとせず、早めに医療機関へ相談してください。
急激な筋力低下や排尿・排便障害がある場合は、速やかな受診が必要です。
- 急に足へ力が入らなくなった(つま先が上がらない、膝がカクンと抜ける)
- お尻や脚に強いしびれや感覚低下がある
- 会陰部(股の間)に強いしびれや感覚低下がある
- 排尿・排便がしづらい、または意思に反して出てしまう(排尿・排便障害)
- 発熱を伴う腰痛がある
- 転倒・転落・交通事故など大きな外傷の後に痛みが出た
- 横になって安静にしていても強い痛みが続く
- 夜間に腰の痛みで目が覚める状態が続く
- 痛みが改善せず、徐々に悪化している
- 立ち上がることや歩くこと自体が著しく困難な状態が続いている
- 原因不明の体重減少など、腰痛以外の全身症状を伴う
これらは特定の病気を断定するものではありませんが、別の病態や専門的な処置が必要な状態が隠れていないかを確認するための重要な目安となります。
立ち上がると痛いときの過ごし方
立ち上がるときに腰の痛みが出ている時期の過ごし方について、適切なポイントを整理します。
痛みがあると、「もう一度立てば痛くないかもしれない」と何度も繰り返し立ち座りを行って確認したくなることがあります。
しかし、痛みを強く再現する立ち座りを何度も繰り返すことは避けましょう。
痛みが強いときは、勢いをつけて何度も立ち上がるのではなく、痛みが少ない方法を選びましょう。
必要に応じて肘掛けや手すりなどを使うことで、立ち上がりやすくなる場合もあります。
ただし、どの動きが適しているかは痛みの原因や身体機能によって異なります。
長時間座ったあとに立ち上がると痛む場合は、痛みが強くなるまで同じ姿勢を我慢し続けるのではなく、途中で立ち上がる、姿勢を変えるなどして調整しましょう。
腰が痛むからといって、長期間まったく動かずに完全安静を続ける必要はありません。痛みや脚の症状が増えない範囲で、立つ・歩くなどの日常動作を続けることが一般に勧められています。
「立つと痛いから腹筋を鍛えよう」「無理に前屈ストレッチで伸ばそう」と自己判断で強い運動を開始することは避けましょう。原因や病態によって適切な運動は異なるため、痛みが強い時期は自己判断でのストレッチや筋トレを控え、専門職へ相談してください。
よくある質問(FAQ)
立ち上がるときの腰痛に関してよく寄せられる疑問にお答えします。
A. ベッドや布団から「起き上がる」動作と、椅子から「立ち上がる」動作は異なります。
起き上がるときに体をどのように動かしているかによっても、腰にかかる負担は変わります。そのため、「朝起き上がると痛い」と「椅子から立つと痛い」を同じ原因とは判断できません。痛みが出る動作を分けて確認することが大切です。
A. 湿布や外用の鎮痛薬は、一時的に痛みを和らげる目的で使われることがあります。
ただし、湿布で痛みが和らいだとしても、立ち上がり時の腰への負担や原因そのものが解消されたわけではありません。
皮膚トラブル、持病、妊娠、他の薬との関係などがあるため、説明書を確認し、必要に応じて医師や薬剤師へ相談してください。
A. コルセットを自己判断で常用することは勧められません。
病態や日常生活上の必要性に応じて医療者が使用を検討することはありますが、すべての腰痛に必要なものではありません。
使用を考える場合は、医師や理学療法士などへ相談してください。
A. 痛みの原因や症状の強さによって異なります。
脚のしびれなどがなく、痛みが増えない範囲であれば日常の立ち・歩きなどの活動を続けることが勧められますが、痛みを強く再現するような運動や筋トレは避けましょう。
まとめ
立ち上がると腰が痛む原因は一つではなく、筋筋膜性腰痛、椎間板性腰痛、椎間関節性腰痛、腰椎捻挫・急性腰痛症、腰椎椎間板ヘルニアなど、複数の病態が考えられます。
座位から立位へ移る動作には、腰だけでなく骨盤や股関節、膝など複数の部位が関係します。
そのため、腰が痛む場合でも、立ち上がる動作全体をみながら原因を整理することが大切です。
立ち上がる瞬間の症状だけで病名を確定することはできません。
脚のしびれや痛みの経過を合わせて確認することが大切です。
脚のしびれや力が入りにくい症状がある場合、強い痛みが続いて日常生活に支障が出ている場合は、自己判断で放置せず、医療機関へ相談してください。
4 unique steps




