「肩がズキズキ痛んで腕が上がらない」
「夜中に肩の痛みで目が覚めてしまう」
このような症状が出たとき、「五十肩になったかもしれない」「病院で肩関節周囲炎と言われたけれど、何が起きているのだろう」と不安を感じる方は少なくありません。
しかし、「五十肩」という言葉は日常会話から診療現場まで幅広く使われている一方で、その意味や医学的な位置づけには曖昧な部分が多く含まれています。
また、「腕が上がらない」「夜痛む」といった症状は、五十肩だけでなく別の肩の疾患でも生じることがあります。
この記事では、五十肩・肩関節周囲炎・凍結肩といった用語の違いから整理し、典型的な症状や経過、自己判断を避けるべき理由について理学療法士の視点からわかりやすく解説します。
五十肩とは?肩関節周囲炎や凍結肩との言葉の違い
肩に痛みや動かしにくさが出た際、さまざまな病名や呼び方を耳にすることがあります。
まずは、これらの言葉がどのように使われているのかを整理しておきましょう。
「五十肩(あるいは四十肩)」は、中高年にみられる肩の痛みや動かしにくさに対して、日常的に広く使われてきた呼び方です。
日常会話や診療時の説明で広く親しまれている言葉ですが、単一の明確な病態を示す厳密な医学名ではありません。
日常診療において「五十肩」「肩関節周囲炎」「凍結肩」は近い意味で使われることがよくあります。
しかし、医学的な使われ方には以下のような幅や背景の違いが存在します。
- 肩関節周囲炎
日本で広く使われてきた診断名ですが、その指す範囲は時代や文脈によって一定ではありません。 - 凍結肩(frozen shoulder)
国際的な医学文献で中心的に扱われる臨床概念であり、肩関節の明らかな可動域制限(自分で動かす自動運動だけでなく、他者が動かす他動運動も制限される状態)と痛みを主徴とする状態を指します。 - 癒着性肩関節包炎(adhesive capsulitis)
関節包の線維化や肥厚などの組織変化に着目した呼称で、基本的には凍結肩とほぼ同じ意味で用いられます。ただし、「癒着性肩関節包炎」という名称ではあるものの、肩の中が単純に“癒着して動かなくなる病気”と考えるのは正確ではありません。その詳細な病態は現在も完全には解明されていません。
このように、研究や文献によって定義の範囲にはばらつきがあります。
大切なのは名称だけで状態を決めるのではなく、どの程度の痛みや可動域制限があり、ほかの肩疾患が考えられないかを確認することです。
「50代だから五十肩」「30代だから違う」というように、年齢だけで状態が決まるわけではありません。
明らかな誘因のない一次性のものだけでなく、糖尿病や甲状腺疾患などの全身要因、あるいはケガや手術後の固定期間などをきっかけに生じる二次性の拘縮肩も存在します。
症状の現れ方や背景は人によって多様です。
五十肩・凍結肩などでみられることがある主な症状
五十肩や凍結肩では、肩関節を中心にいくつかの典型的な症状がみられることがあります。
初期には腕を上げたり外側にひねったりした際に鋭い痛み(動作時痛)が生じやすく、進行すると安静にしていてもズキズキと痛むことがあります。
寝返りを打った拍子に激痛が走る、痛む側の肩を下にして寝られない、就寝中にじわじわと痛んで目が覚めるといった「夜間痛」も多く報告されます。
関節の周りが固まっていくにつれて、腕を真上に上げられない(挙上制限)、肘を曲げて外側に開けない(外旋制限)、手を背骨の後ろに回せない(内旋・結帯動作の制限)といった動きの制限が強くなります。
肩の動きが狭まることで、「服の脱ぎ着で袖に腕を通しにくい」「つり革に手が届かない」「エプロンの紐を結べない」「髪を洗う動作がしづらい」など、生活のさまざまな場面に支障が生じます。
なぜ肩が痛くなり、動かなくなるのか?
肩関節は、人体の中で最も広い可動範囲を持つ関節です。
上腕骨の丸い骨頭が肩甲骨の浅い受け皿にはまり込み、その周囲を「関節包(かんせつほう)」と呼ばれる柔軟な袋が包み込んでいます。
凍結肩では、関節包を中心とした組織に炎症や線維化、肥厚などの変化がみられ、肩の痛みや可動域制限に関係すると考えられています。
ただし、なぜ発症するのか、どの変化が症状にどの程度関係するのかは、まだ完全には分かっていません。
そのため、「特定の筋肉が硬いから五十肩になる」といった一つの原因だけで説明することはできません。
五十肩・凍結肩はどのような経過をたどる?
「五十肩は放っておけば自然に治る」と耳にすることがありますが、実際の経過には大きな個人差があります。
発症からの期間や症状の推移によって、強く現れる問題は変化していきます。
初めは痛みが主体の状態から、次第に痛みは落ち着くものの動く範囲の狭さが目立つ状態へと移り変わる傾向があります。
【従来の臨床説明モデル】
臨床現場では、経過を大まかに理解するための枠組みとして、古典的に以下の3つの段階が説明に用いられてきました。
- 疼痛期(freezing) :炎症や痛みが強く、徐々に動きが制限される
- 拘縮期(frozen) :痛みは徐々に和らぐが、関節の固まりが最も目立つ
- 回復期(thawing):動きの制限が徐々に緩解し、動かせる範囲が戻ってくる
ただし、すべての人がこの3段階を明確に区切って順番にたどるとは限りません。
現在では、症状の経過には大きな個人差があり、この3段階は経過を理解するための一つの説明モデルとして捉える方が適切です。
「自然に必ず元通りになる」とは限らない
五十肩・凍結肩は時間とともに症状が軽くなる場合がありますが、「何もしなくても最終的には全員が元通りになる」とは言い切れません。
長期間にわたり痛みや可動域制限が残る人も報告されています。
「一定期間待てば必ず元通りになる」と考えず、症状が続く場合には状態を評価してもらうことが大切です。
「五十肩ではない」別の肩の病気にも注意が必要
「肩が上がらない」「夜痛む」という症状があるからといって、必ずしも五十肩(肩関節周囲炎)であるとは限りません。似た症状を呈する別の疾患が隠れている場合があります。
- 腱板断裂(けんばんだんれつ)
- 石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)
- 変形性肩関節症(へんけいせいかかんせつしょう)
- 頸椎(首)由来の神経症状
- 内科系疾患や心疾患に伴う関連痛
肩のインナーマッスルである腱板が傷ついたり切れたりする病態です。五十肩と同様に「夜間痛」や「腕が上がらない」といった症状が出現するため、症状の見た目だけで見分けることは困難です。
腱の中にリン酸カルシウムなどの結晶が沈着して急激な激痛を起こす「石灰沈着性腱板炎」や、関節軟骨のすり減りや骨棘がみられる「変形性肩関節症」などもあります。
レントゲンや超音波、MRIなどの画像検査は、五十肩を画像だけで確定するためのものではなく、症状に応じて腱板断裂、石灰沈着、変形性関節症など、ほかの病態を確認するために用いられることがあります。
首の骨や神経の圧迫(頸椎症性神経根症など)によって肩や腕に痛み・しびれが出ている場合や、心臓・内臓疾患からの関連痛として肩の痛みが現れているケースもあります。
受診を優先すべき症状と目安
以下のような症状や兆候がみられる場合は、五十肩と自己判断して様子見を続けず、早めに医療機関(整形外科等)を受診してください。
- 転倒や衝突など、明らかな外傷の後に肩をほとんど動かせない、変形がある
- 腕を自分の力で持ち上げることが急に全くできなくなった(明らかな脱力・筋力低下)
- じっとしていても耐えられない激痛が続き、発熱や悪寒などの全身症状を伴う
- 腕から手先にかけて強いしびれや麻痺など神経症状が強く、進行している
- 胸の圧迫感、息苦しさ、冷汗など、肩以外の重大疾患を疑う症状がある
理学療法では何を確認し、どう向き合うか
医療機関での理学療法(リハビリテーションのうちのひとつ)では、単に「五十肩」という診断名だけを見るのではなく、一人ひとりの肩の細かな状態を多面的に確認していきます。
理学療法士は、以下のようなポイントを総合的に確認します。
- 自分で動かす範囲と他者に動かしてもらった範囲:自動運動と他動運動にどのような差があるか
- 痛む方向と制限因子:どの角度・どの方向に動かしたときに痛みやつっぱり感が出るか
- 肩甲骨や頸部の動き:肩関節だけでなく、周囲の連動性が保たれているか
- 腱板の機能や筋力:肩を動かしたときの筋力や、腱板に関係する所見を確認する
- 日常生活での困りごと:服の着脱、洗髪、就寝姿勢など、実際に何に最も困っているか
肩が痛いときに「とにかく動かした方がよい」「痛む間はまったく動かさない方がよい」と一律に判断することはできません。
痛みの強さや可動域、症状の経過などによって、運動の種類や動かす範囲は変わります。
強い痛みを我慢して無理に動かすのではなく、その時点の状態に合わせて調整することが大切です。
4 unique steps 
