膝の手術を受けたあと、
「思ったより曲がらない」
「このまま固まってしまうのでは」
「もっと頑張って曲げたほうがよいの?」
「病院に相談するほどなの?」
と不安になる方は少なくありません。
これまで理学療法士として20年以上、術後のリハビリや、その後の生活期まで含めて多くの方と関わってきました。
その中で何度も感じてきたのは、
同じ“膝が曲がらない”でも、中身はまったく同じではない
ということです。
たとえば、
- 曲げると痛くて途中で止まる
- 腫れて重く、そもそも動かしたくない
- 動かそうとすると身体が力んでしまう
- ベッド上では少し動くのに、立つと急に難しくなる
- 屈曲の角度上、数字としてはそこまで悪くないのに、生活では困っている
- 一度良くなったのに、また悪くなった
こうした状態を、全部まとめて「曲がらない」と表現していることがあります。
整形外科病院などのホームページでは、術後の一般的な経過が説明されていることが多いと思います。
もちろん、それは大切な情報です。
ただ実際の現場では、
標準どおりに進む方ばかりではありません。
同じ手術を受けても、
- 術前にどれくらい動いていたか
- 痛みへの反応
- 炎症(腫れなど)の出方
- 筋力
- 身体の使い方
- 不安の強さ
で経過はかなり変わります。
そのため、
「何度曲がるか」だけで判断すると、かえって迷いやすくなります。
この記事では、
- 膝の手術後に曲がりにくくなる主な理由
- 「膝屈曲120°」という数字をどう考えるか
- 頑張って膝を曲げるべきなのか
- どんなとき相談したほうがよいのか
を、理学療法士の現場視点で整理します。
※この記事は一般的な情報整理を目的としています。個別の診断や治療方針を示すものではありません。
まず確認したいのは「いつから気になっているか」です
同じ「曲がらない」でも、時期によって意味が変わります。
この時期は、不安になりやすい時期です。
実際によくあるのは、
膝そのものが固まっているというより、腫れや痛みで身体が守っている状態
です。
術後の膝は、見た目以上に敏感です。
「曲げよう」と思っていても、「曲げ方がわからなくなった」ような感覚になる方もいます。
リハビリの場面でも、
頑張ろうとしているのに、どうしても力が抜けない
ということは珍しくありません。
これは、やる気の問題ではありません。
痛みや腫れに対する自然な反応です。
ここからは少し見方が変わります。
担当理学療法士として見ていると、
- 腫れが思ったより長引いている
- 痛みへの警戒が残っている
- 太ももの筋力が戻りきっていない
- 動かし方にクセがついている
- 真面目に頑張りすぎて逆に悪循環になっている
といったことがあります。
また、
術前にどれくらい膝が動いていたか
もかなり予後に影響します。
長い間、痛みで膝をかばっていて変形が進んでいた方と、筋力も保たれていて比較的膝の関節が動いていた方では、術後のスタート地点が違います。
「手術したのだから、新しい膝のように動くはず」
とイメージされることもありますが、実際はそこまで単純ではありません。
ここは少し注意して見たいところです。
たとえば、
- 前より腫れてきた
- 痛みが増えた
- 急に動かしにくくなった
- 以前より曲げるのがこわくなった
など。
術後の経過には個人差がありますが、
「順調だったのに変化した」
という場合は、自己判断だけで進めないほうがよいこともあります。
10年前くらいと違って、術後から同じ病院に長く入院したり、何年も外来リハビリを受けたりすることは稀になってきました。
いったん、定期受診もリハビリも卒業してしまい、再診してもこれといった治療は無い、と言われてしまったような場合は、途方に暮れてしまわれるかと思います。
あくまでも一例ですが、
以前、担当させていただいた方の中には、セカンドオピニオンとして別の病院(当時私が所属していた病院の整形外科) に頼り、固まってしまった膝に対して新たな対処がなされ、結果的に膝が動かしやすくなった、といった方もいました。
今時は、セカンドオピニオンも常識になりました。
専門的に診てもらえて通えそうな病院の窓口に問い合わせてみて、
診察の可否と診断書などの準備事項を確認した上で、受診することをおすすめします。
「曲がらない」の背景は一つではありません
これは非常によくあります。
膝が腫れると、物理的に関節を動かしにくくなります。
実際、見た目の腫れがそれほど強くなくても、
ご本人としては“重い”“詰まる感じがする”
と表現されることがあります。
そして、
腫れる
↓
痛い
↓
身体が膝を曲げないように防御する
↓
力が抜けない
↓
さらに動かしにくい
という流れになることがあります。
「頑張っているのに変わらない」と感じるとき、この悪循環が起きていることがあります。
繰り返しお伝えしていますが、これは本当に多いです。
ご本人は、良くなりたいと思っています。
むしろ真面目な方ほど、
「もっとやらないと」
と考えます。
それでも、身体のほうが先にブレーキをかけることがあります。
「曲げよう」と思っているのに途中で止まる。
力を抜きたいのに抜けない。
こういう状態です。
術後は、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋など)をはじめ、膝周りの機構が平常に働きにくくなることがあります。
ここでよくあるのが、
ベッド上ではそこそこ動くのに、立った状態だと急に難しくなる
というケースです。
寝た状態では曲がるのに、
- 立ち上がり
- 階段
- 歩行
になると急に難しくなる。
こういうときは、膝の曲げ伸ばしの角度だけでは説明しきれません。
支える力や、身体全体の使い方まで関係してきます。
ここはかなり大きい要素です。
長い間、痛みでかばっていた方。
手術前からかなり曲がりにくかった方。
こうした場合、
術後のスタート地点そのものが違います。
人工膝関節の手術は、大きな変化をもたらすことがあります。
ただ、「何もなかった頃の膝に戻す手術」ではありません。
そのため、「他の人はもっと曲がっているのに」という比較は、あまり意味を持たないことがあります。
ここは、一般向けの情報ではあまり深く触れられない部分かもしれません。
でも、リハビリの視点としてはかなり大切です。
実際には、
- 股関節
- 体幹
- 荷重のかけ方
- 歩き方
- 身体全体の使い方
が総合的に影響していら場合が多いです。
「膝が曲がらない」と思っていても、
実際には、膝だけを見ていても答えが出ないケースがあります。
「屈曲120°が目標」と言われて不安な方へ
「120°まで曲げましょう」
と言われて、
まだそこまでいかない
失敗なのでは
と不安になる方もいます。
ここでまずお伝えしたいのは、
数字だけで良し悪しは決まらない
ということです。
もちろん、膝の曲がりは生活に関係します。
ただ、最終的に大切なのは
今の角度で、生活の何に困っているか
です。
例えば、
- トイレ
- 椅子からの立ち上がり
- 階段
- 車の乗り降り
こうした生活場面。
人工膝関節の手術は、
「120°という数字を作ること」そのもの
のみが目的ではなく、生活しやすい状態を目指すこと
が大きな目的です。
理学療法士として見ていると、120°という数字だけが一人歩きして、不安になる方は少なくありません。
同じ90°でも、生活でかなり困る方もいれば、工夫しながら生活できている方もいます。
逆に、数字がよくても、「思ったように使えない」と感じる方もいます。
「もっと頑張って曲げる」が正解とは限りません
ここは誤解されやすいところです。
検索していると、「痛くても頑張ったほうがいいようだ」と解釈してしまうかもしれません。
ただ実際には、頑張る方向がズレると悪循環になることがあります。
真面目な方ほど頑張りすぎることがあります。
腫れている
↓
無理する
↓
痛い
↓
身体が守る
↓
もっと動きにくい
といった負担の強い流れです。
もちろん、可動域の練習が必要なケースはかなり多いとは思います。
ただ、量より、“今の状態に合っているか”が大切です。
実際に、曲がりにくさと向き合ったケースがあります
当サイトでも、人工膝関節全置換術(TKA)後の実例を紹介しています。
この方は、
- 65歳女性
- 右TKA術後
- 初期は膝裏の痛み
- 防御性の収縮が強い(身体が曲げないように固めてしまう)
- 屈曲制限あり(曲がらない)
という状況でした。
「ひたすら曲げる」だけではなく、
- 筋機能
- 身体の使い方
- 段階的な運動
を整理しながら進めていきました。
詳しい経過はこちらです。
↓TKA術後の筋トレ成功実例
※個人の実例であり、同じ結果を保証するものではありません。
こんなときは相談を考えてください
次のような場合は、主治医や担当療法士への相談を考えてよいタイミングかもしれません。
- 痛みが急に強くなった
- 腫れや熱感が増えた
- 一度よくなったのに悪化した
- 急な変化がある
- 不安が強い
- 「このままでよいのかわからない」
迷ったときに、相談すること自体が悪いことではありません。
まとめ
膝の手術後に「曲がらない」と感じると、不安になるのは自然なことです。
ただ、同じ“曲がらない”でも、中身は同じではありません。
大切なのは、
- いつからか
- 腫れか
- 痛みか
- 筋力か
- 身体の使い方か
- 今、何に困っているのか
を整理することです。
数字だけで焦るより、自分の状態を整理して考えることが大切です。
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