【実例】動きたいのに動けない|訪問サービスをきっかけに生活を再構築した40代女性

はじめに

「動かなければと思っているのに、体が動かない」
「何か始めたい気持ちはあるのに、不安で止まってしまう」

リハビリの仕事では、このような状態にある方と関わることがよくあります。

今回ご紹介する 佐藤まきさん(仮名・50代前半) もその一人でした。不安障害と慢性的な腰痛を抱え、母親と同居する生活

の中で、日常生活の多くが困難になっていました。回復は精神論によるものではなく、安心できる関係性と、身体への適切な

アプローチの積み重ねによって進んでいきました。

生活が停滞していた頃の状態

まきさんは10代の頃から、多忙な母親に代わって父親の介護と弟の世話を担ってきました。

大学在学中に父親を亡くし、その頃から「自分のせいかもしれない」と自分を責めるようになり、外出や他者との交流が途絶えました。

当時のまきさんは、以下のような状態にありました。

• 外出ができない

• 不眠が続く、大きな音に敏感になる

• 家事がほとんどできない

• 日中も横になって過ごす時間が長い

• 人と話すことへの強い緊張

• 動こうとすると動悸が起きる

横になる時間が増えたことで体重が増加し、筋力低下と重なって慢性的な腰痛も抱えていました。

腰痛が出ると自分が怠けているせいだと考え込み、さらに動くことが怖くなる。

こうした不安・身体症状・思考の偏りが相互に影響し、行動が縮小していく状態にありました。

回復のきっかけとなった要素

① 安心して関われる支援者との関係

介入当初、まきさんはスタッフと目を合わせることが難しく、強い緊張状態にありました。しかし、訪問を重ねる中で自分の

気持ちを言葉にし、訪問看護が心理的な安全基地となっていったことで、対人面での動悸が減少していきました。

② 腰痛への理解と対処経験

リハビリで痛みの原因や対処法を学び、ストレッチを開始しました。痛みが出ても自分を責めるのではなく「対応できる」と

いう感覚が少しずつ育っていきました。

③ 身体感覚の変化を伴う成功体験

ストレッチ後に「体が軽い」と感じられたことが、継続の動機づけになりました。行動と身体感覚が結びつく経験が、自己効

力感の回復に影響しました。

生活の広がり:段階的なステップ

行動は、スモールステップで少しずつ広がっていきました。

音に慣れ、ベランダへ出る

まずは窓を開けて外の音に慣れる段階から始めました。

少しずつ刺激に慣れてきた頃、母親が植物に水をあげているのを見て自分も手伝おうという気持ちが湧き、ベランダに出るこ

とが可能になりました。

買い物の成功体験と認知の修正

「買い物に行きたい」という意欲が出た後も、周囲の環境(子供の声や混雑)で断念することが続きました。

まきさんはこれを失敗と捉えていましたが、セラピストから「目的地に行けなくても、まずは玄関の外に出られた自分を認め

ること」を伝え、本人もその考えを理解しました。

その後、昼間の空いている時間帯に母スーパーに行くことで成功体験を積み、次第に一人でも買い物ができるようになりまし

た。

動きすぎを防ぐペーシングの習得

調子が良い時に動きすぎて疲労を強めてしまう傾向があったため、

「〇〇分動いたら休憩する」「万歩計で〇〇歩歩いたら休む」といった具体的なルールを設けました。

痛みが出た時のストレッチと併用することで、疲労がコントロールできるようになり、不安のない外出を支える土台となりま

した。

今後の見通しと環境の選択

生活の再構築が進む中で、まきさんの関心は今の生活から自分一人の生活や仕事など今後の生活へと移っていきました。

その中で出てきたのがパソコンを覚えたいという意欲です。

学習環境を選ぶ際、まきさん自身が画面越しに知らない人と対面することへの不安を自覚していました。

それ以上に、「今後働くことを考えるなら、家に閉じこもるより外に出て直接教えてもらう経験の方が役に立つ」と判断し、

あえて外に出るという環境を選択されました。

母親と同伴で電車に乗り、教室を見学に行く。

これまでと同じように、安心できる要素を確保しながらのスモールステップでの開始でした。

通い始めた当初は、家を出る前になると「電車に乗れるのか」「発作が起きないか」という強い予期不安に襲われることもあ

りました。

しかし、週一回の通学を繰り返す中で、教室の雰囲気や講師・他の生徒とのやり取りが、不安を上回っていきました。

今では、以前のような強い緊張を感じることもなく、本人も驚くほど自然に周囲と会話を楽しみながら通えています。

まとめ

まきさんは現在も教室に通い続けており、他の生徒に教える事ができるようにまでなり、最近では就労という言葉も口にされ

るようになっています。

まきさん自身の今の生活から変わりたいという強い気持ちと、家族、訪問サービスが方向性を共有し関わることで生活リズム

や社会参加への意識が回復しました。

動きたくても動けないという不動状態から、腰痛への対処やペーシングを学び、外出という成功体験を積み重ねる。

こうした地道な変化の積み重ねが、現在の生活に繋がっています。