はじめに
「やる気が出ないわけではないけれど、体が重くて動けない」
「やりたいことはあるのに、なにもかもが面倒に感じる」
60代後半の上條正志さん(仮名)の生活は、自分の力だけではどうしようもできない、深い停滞の中にいました。
脳梗塞の後遺症や慢性的な腰痛を抱え、一人暮らしの中で社会との接点が希薄になっていた上條さん。
回復を導いたのは、趣味という強力なモチベーションでした。
生活が停滞していた頃の状態
上條さんは長い間、生活リズムが大きく崩れ昼夜逆転の傾向にありました。
- 家事・炊事の滞り: 室内にはゴミが散らかり、食事は食パンのみなど極端に偏った内容。
- 活動範囲の縮小: 外出は近所のコンビニへタバコを買いに行くのみ。
- 日中の過ごし方: 横になってテレビを見ている時間が長く、体力の低下が顕著。
上條さんには、「パチンコに行ったりや馬券を買いに行きたい」という強い希望がありました。
しかし、いざ動こうとすると「足が重くなって、行くのが面倒になる」と話されていました。
身体と精神は表裏一体です。
痛みや麻痺は軽度だったのにも関わらず、精神的な問題と体力の低下により、生活そのものが止まってしまっている状態でした。
回復のポイント:ショートゴール達成の積み重ね
転機となったのは、作業療法士の訪問サービスによる、週に一度のリハビリでした。
① こまめな客観的フィードバック
リハビリ中は、具体的なデータや見た目の変化内容を、こまめに伝え続けました。
最初は自覚が薄かった上條さんですが、実際に屋外を一緒に歩いて達成した内容をフィードバックされながら練習を繰り返す中で、少しずつ「歩ける」という感覚を取り戻していきました。
② 一人でできた、という成功体験
最大の転機は、一人で電車に乗って目的地まで行けたことでした。
最初は、短い時間での短距離移動ではありましたが、この経験が、「次はもう少し行ける」という自信につながりました。
上條さんは、どんなことでも行動変容のきっかけが必要だったのです。
回復は、どのように進んでいくのか
回復は、良い日と悪い日を波形のように繰り返しながらも、平均的には緩やかな右肩上がりを描いて進んでいくものです。
一直線ではなく、季節の影響なども受けながら、上條さんの生活は確実に変化していきました。
- 習慣の定着: 毎日欠かさずコンビニへタバコを買いに行くことからスタート。
- 生活の質の向上: 野菜炒めなどの簡単な自炊を開始。昼夜逆転も解消される。
- 活動の拡大: 週2〜3回、電車でパチンコや馬券売り場へ。1日30分の散歩を3回こなすほど活動的に。
- 季節による停滞: 冬になり寒さが増すと、外出が億劫に。自宅にこもることで昼夜逆転が再燃し、転倒してしまう場面も。
- 1.に戻る
一度積み上げたことが崩れてしまうことはとてもつらいことです。
しかし、逆戻りを何度も経験したことで、改めて自分の体に注意を向ける大切さを実感することに繋がりました。
気持ちの変化:自分事としての健康管理
現在の上條さんは、単に言われたからやるのではなく、自発的に生活を整えようとされています。
- 食事への関心: 体に良い食べ物を自ら試行錯誤し、缶詰などの手軽なものから積極的に導入。
- セルフケア: もっと楽にパチンコに行けるようになりたいという目標のため、セルフエクササイズを開始。
まとめ
上條さんの実例は、本人の楽しみ(趣味)を目標にする、達成感は少しずつでも継続的に得る、といったことの重要性を示しています。
時に状態が逆戻りしてしまいつつも、毎回軌道修正し、平均的には活動的で規則正しい生活を送れるようになった上條さん。現在も、「趣味のためにこの体を維持しよう」と生き生きと仰り、主体性をもって生活することができています。
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